最後の日〜ありがとう、マーチ〜
朝ご飯を食べた後、私はマーチにハーネスをつける。でもそれは、街中を歩いている犬がつけている普通のハーネスじゃない。この子が特別なことを示している。

白いハーネスにはオレンジのバッグがついていて、そこには「盲導犬 お仕事中」と書かれているそうだ。初めてマーチに会った時、施設の人が教えてくれた。マーチは盲導犬である。

私は目が見えない。私の目の前は十年前、真っ暗になった。目が見えなくなってすぐ、私の目になってくれたのがマーチだ。

「行こうか、マーチ」

私が声を掛けると、マーチは私の手に頭を擦り寄せてくる。柔らかくて温かい毛。体の大きなラブラドール・レトリバー。とっても甘えん坊で、でもハーネスをつけるとしっかり私を誘導してくれる。

そんなマーチと今日、私はお別れをしなくてはならない。



盲導犬が働ける時間は短い。十歳ーーー人間でいう六十歳ほどで盲導犬は引退する。マーチは十歳。今日で盲導犬を引退するんだ。
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