厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
「フラン・ミア・シャムール?」

 もう一度、皇太后から名を呼ばれた。これ以上、高貴な相手を待たせることはできない。

「シャむっ、……シャムール王国から参りました、第一王女の、フランと申します」

 セリフを噛んでしまいながらも、懸命に自己紹介をする。覚悟を決め、ギ、ギ、ギ、と軋むような動きで、足元の絨毯から視線を引き剥がした。

 まずは帝国の支配者たる皇帝と皇太后に挨拶をしなければと、正面の玉座を見上げる。
 すると、視界に飛び込んできたのは「恐ろしく整った」美貌――神を象った彫像のごとく、強烈で輝かしい美丈夫の姿だった。

(――えっ……?)

 思わず見惚れていると、皇帝の射貫くような視線をまともに受けた。
 心拍数が跳ね上がり、呼吸が苦しくなる。冷静にならねば、気を失ってしまいそうだ。

 彼の年頃は、おそらく二十代後半。フランより年上と見て間違いない。
 少し襟足を遊ばせた艶やかな髪は、高貴さが漂うブロンド。見る者を鷲掴みにする瞳は、深い色合いの紫。神秘的でアメジストのごとく輝いている。
< 16 / 265 >

この作品をシェア

pagetop