厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 泣きそうになって悲鳴を上げれば、目下に見える彼の肩は細かく震えている。くくっと笑いをこらえるような声がした。
 からかわれたと思い頬を膨らませると、ライズは悪かったと言って、気張らない笑顔を見せる。

「すまない。照れているおまえが可愛くて……」

 思わず喉を詰まらせた。その顔でそんなことを言われたら、すべてを許すしかないではないか。
 それから真顔でじっと見つめられ、甘く濃密な空気に一気に引き込まれた。

「好きだ……全部、食べてしまいたいよ」

 顔を寄せてきた彼に耳元で囁かれて、ごくりと喉が鳴る。
 小さく頷くと同時に、強く抱きしめられた。熱い体温、体の重みが心地よい。たまらず逞しい首に手を回し、しがみついた。
 互いに夢中で、溶け合うようにキスを交わす。彼がくれる大きな愛を、ひとつとして逃さぬように。

 めくるめくステキな夜が、幕を開ける。
 疲れて眠りに落ち、朝がきて、そしてまた夜が来ても、終わることのない愛しい日々が、これからも続いていくのだ。


 ――その夜、フランは夢を見た。
 青い海、白い砂浜。天井のない地上の楽園。
 浜辺にたたずむのは、フランによく似た獣人族の少女。
 少女は砂を蹴って駆けだして、ライズによく似た冒険家の青年の胸に飛び込んだ。

『やっと、逢えたね――』


**おわり**
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