紅色に染まる頃
第二十一章 初めてのデート
「わはははは!どうだ、私の大手柄だろう?」

屋敷のリビングでふんぞり返る父に、家族一同眉をひそめる。

美紅と伊織の婚約を知って、誰よりも大はしゃぎしているのは父だった。

「美紅が伊織くんと婚約!これも全て私の導きの賜物だな。それだけじゃない。もうすぐ我が家に孫が産まれる!いやー、めでたい。盆と正月が一緒にやって来るぞ。あはは!」

浮かれっぱなしの父は完全にシャットアウトし、皆で肩を寄せ合って話し出す。

「良かったわね、美紅」
「本当に。幸せになるのよ、美紅」

祖母と母の言葉に、美紅はありがとうと頷く。

「美紅ちゃん、おめでとう!私もとっても嬉しいわ」
「ありがとう、エレナさん」
「しかもお相手はあの本堂さんか。良かったな、美紅。幸せになれよ」
「うん。ありがとう、兄さん」

家族の祝福を受け、美紅はようやく実感が湧いてきた。

少し前まで、伊織を遠くに感じて寂しさを抱えていたのが嘘のように、今はただ幸せな気持ちに包まれている。

美紅はワンルームマンションを引き払い、結婚までの期間を屋敷で過ごすことにした。

(家族との時間を大切にしたい。これまで育ててもらった分、せめてもの恩返しがしたい)

そう思い、美紅は皆に感謝しながら毎日を大事に過ごしていた。

伊織と美紅、二人揃っての両家への挨拶も済ませ、両親同士の顔合わせも行う。

既に仕事の関係で互いによく知る間柄だった為、終始和やかな雰囲気で進められた。

結婚式は秋に小笠原家に縁のある神社で、披露宴は本堂リゾートのホテルで執り行うことも決まる。

二人は仕事の傍ら準備に追われていた。
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