紅色に染まる頃
第七章 恋愛と結婚
「お、美紅!お疲れ。どうだった?」

伊織を案内したあと、美紅は兄のバーに立ち寄った。

営業時間にはまだ少し早く、兄はカウンターで開店前の準備をしている。

「うん。ひと通り説明して、無事にお別れしました」
「なんだ?無事にお別れって。それにお前、その格好で会ったのか?」
「そうだけど、それが何か?」
「あらま、なんて色気のない」

ブラックのパンツスーツ姿の美紅を見て、紘が肩をすくめてみせる。

「あんなにイケメンで爽やかな御曹司なのに、もったいない。そう言えばお前達、お見合いしたんだって?」
「違うわよ。父さんが勝手に仕組んだの」
「じゃあ、別に結婚の話にはなってないのか?今日も?」
「もちろん。それに今日は、兄さんに頼まれたからお会いしただけよ?」
「うわー、つまらんな。期待して損した」
「なあに?それ」

カウンターチェアに座ってコーヒーを飲みながら話をしていると、入り口のドアが開く音がした。
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