紅色に染まる頃
会社に戻った伊織は、副社長室のデスクで一人じっと考え込む。

どうやっても美紅のことが頭から離れない。

彼女の信念、生き様、潔さ、強さ、そして内から溢れる清らかさ…

全てに打ちのめされたような気がしていた。

(俺はなんて生ぬるい人間なんだろう。28年間ものうのうと生きてきた。愚かで未熟で…。副社長なんて名乗るのも恥ずかしい)

アイデアに行き詰まったなどと、情けない弱音を吐いていた自分が許せない。

伊織はグッと唇を噛みしめてから、決意に満ちた顔を上げた。

パソコンを操作し、今まで作ってきた計画書や資料を全て消去する。

(こんなんじゃ駄目だ。本当の意味でゼロからやり直してみせる)

二度と弱音など吐くものか。

伊織は別人のように気迫のこもった表情でパソコンに向かっていた。
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