紅色に染まる頃
第十一章 そのままの君で
和やかにおしゃべりしながら夕食をご馳走になり、美紅は早めにおいとますることにした。

「本日はありがとうございました。それでは、失礼致します」
「またどうぞ、いつでもいらしてね、美紅さん」
「はい、ありがとうございます」

にこやかに挨拶して、須賀が開けてくれたドアから車に乗り込む。

走り出すと、美紅は隣に座る伊織に声をかけた。

「わざわざ本堂様まで、お見送りありがとうございます」
「いや、いいんだ。こちらこそ今夜はどうもありがとう。両親もとても嬉しそうだった。それと…」

そこまで言って、伊織はポリポリと頬を掻く。

「どうかされましたか?」
「いや、うん。その、本堂様、なんて呼んでくれなくていいよ。俺は様なんて付けられるほどご立派な人間じゃない」
「まあ、ですが…」
「だってそれなら、俺も君のことを小笠原様って呼ばないとね」
「ええー?それはちょっと…。わたくしは結構です。それに、小笠原様って言いにくいでしょう?本堂様はすんなり言えますもの」
「そういう問題?!」

二人の会話を運転しながら聞いていた須賀が、チラリとバックミラー越しに目をやる。

どうにもむず痒くてたまらない。

「伊織様、美紅様。どちらも素敵で、お似合いのお名前ですね」

助け舟を出したつもりだったが、当の二人は
照れたようにうつむいたままだ。

(駄目だこりゃ。前途多難だなあ)

肩をすくめてハンドルを握り直した。
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