夢幻の溺愛
第六章 溺 side苑

楽しかった舞踏会を終え、倒れこむように眠りについた翌日、わたしはいつもの時刻より少し後に、煌くんのノックによって目を覚ました。



「すぐ身仕度する!もうちょっと待ってて!」

(わわわ!起きるの遅れちゃった!)



慌てて櫛を手にとる。



(昨日はすっごく楽しかったな…あの絶品の砂糖菓子もいーっぱい食べられたし!途中、怜くんがなぜかいなくなっちゃって煌くんと二人きりになれて、嬉しかった…)



そこまで考えて、少し驚く。



(あれ、わたし、煌くんのことすっごい好きじゃん…!)


かあぁぁっと顔が赤くなっていくのが感じられる。



(今まで、どきどきしてたのも、もしかして好きだったからなのかな…!?)



熱をはらうように、ぶんぶんと頭を振りながらクローゼットの中からお気に入りの洋服をとり出す。

そしてふと下を見ると、紫色の定期が付いた黒いリュックが目に映る。



(ん、あれそういえば昨日も見つけた気がする…このお屋敷から出たこともないわたしが、あんなリュック使うはずもないのに、なんでずっとわたしの部屋にあるんだろ?あとで煌くんたちに処分しておいてもらおう…)



そして部屋を出て、煌くんに声をかける。



「煌くん、おはよう!」

(さっきあんな事考えてたから、ちょっと意識しちゃうな…)

「苑、おはよう。…どうした、顔が少し赤いぞ」

「え…っ、そうかな!?」

「ああ、寝起きだからか?…まあ、どんな苑でもかわいいから安心しろ」

(っ…!そんなこと言われたら、もっと顔赤くなっちゃうじゃん…!)



そこでふと、名前で呼ばれてもそこまで嫌な気分にならなくなったことに気づく。

大好きな煌くんがわたしを名前で呼んでくれるせいで、嫌いだった自分の名前さえ好きになってしまったかもしれない。



「怜が待ってるぞ、早く行こう」

「あ、うん!」



煌くんと共に、光り輝くシャンデリアのついた廊下を歩んでいく。
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