捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

「うっ……」
「ほら。観念して自宅の住所を書いておけ」

どことなく楽しそうな亮介の声に促され、凛は新しくもらった伝票に震える手で実家の住所を記入した。ちらりと視線だけ上げて彼を盗み見ると、口の端を上げて凛を見下ろしている。

その後、数点だけはそのまま持ち帰れるように包んでもらい店を出た。その大きなショップ袋も亮介が持ってくれている。

「あの、副社長。本当にこんなにたくさん頂いてしまっていいのでしょうか?」
「あぁ」
「でも私は、まだ例の件を承諾したわけでは……」

結婚やプロポーズといった直接的なワードを避けたのは、どうしても意識しすぎて恥ずかしかったからだ。

ぼかして伝えたものの、亮介にはきちんと正しく伝わったらしい。

「わかっている。これは日頃の礼だと言っただろう。プロポーズの返事はゆっくり考えてくれていいし、受け取ったからといって結婚を強要したりしない。だが俺は立花と結婚したいと思ってるし、頷いてもらえるように接していくつもりだ」
「副社長……」
「あぁ、ただひとつだけ。できればこれを機に、人のためばかりで自分のことを疎かにするのはやめてほしい。頑張り屋で我慢強いのが立花の長所でもあるが、君を大切に思う周囲の人間はもどかしく感じているはずだ。わがままになれという意味ではないが、もっと周りに頼ったり甘えたりする術を覚えろ」
「周りに、甘える……」

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