捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
元々の真面目な性格に加え母子家庭の長子として育った環境も相まって、凛は他人に甘えたり、感情を表に出すことが苦手だ。
母は「私も働いてるし、お父さんの保険金もあるんだから大丈夫よ」と常々言っているが、それでも女手ひとつで育ててくれた母だけに苦労させるわけにはいかないと、自分のことを後回しにして給料のほとんどを家に入れている。
孝充から別れ話をされた時も、職場で彼の結婚を報告された時も、感情を表に出さないように自分を戒めていた。
節約しながらの生活は大変だし、裏切られれば傷つきもするが、凛自身はそれを静かに受け入れている。自覚はないが、我慢することに慣れているのだ。
しかし、亮介はもっと周囲に甘えていいのだと言ってくれた。服をプレゼントされたこと以上に、その言葉が嬉しい。
「その相手として、俺を選んでくれると嬉しい」
普段はポーカーフェイスな亮介が少し照れくさそうに言うのを目の当たりにして、凛は胸の高鳴りを抑えきれない。
孝充と交際していた一年間で、こんなにもときめいたことがあっただろうか。
(私、副社長相手にすごくドキドキしてる……)