捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

亮介が凛に結婚を申し込んでいるのは恋愛感情からではなく、秘書の失恋現場に居合わせてしまったのが発端だったはずだ。

その場を凌ぐために恋人のフリをしてくれて、さらに互いにメリットがあるからと結婚を提案された。

いわば偽装結婚や契約結婚のようなものなのに、今日の亮介の凛に対する態度はまるで本物の恋人に対する言動のようで、ひとりで舞い上がってしまいそうだった。

「食事に誘いたいが、立花は実家だったか。家事も君が?」
「いえ。高校生の双子の妹がほとんどやってくれています。母は看護師で夜勤もあるので」
「まだ高校生か。それなら遅くまで引き止められないな」
「はい、いえ、あの、申し訳ありません」

まさかこのまま食事に行くつもりだったと知り、凛はあたふたと答えに窮する。

会食などに同席することはあっても、亮介とふたりきりで食事をしたことなど一度もない。

「次は事前に予定を決めて誘うことにしよう」

亮介が呼んでいたタクシーで送ってもらいながら、凛は亮介の真意を計りかね、ただ顔を熱くするしかできなかった。

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