財閥御曹司の独占的な深愛は 〜彼氏に捨てられて貯金をとられて借金まで押し付けられた夜、婚約者に逃げられて未練がましい財閥御曹司と一晩を過ごしたら結婚を申し込まれました〜
 なのに、彼は予想外の言葉を口にした。無責任だ。
 そんな人だったとは思わなかった。
 会いに来てくれた喜びと彼への失望で、胸の中はぐちゃぐちゃになって、涙が溢れた。
 彼はまた来てくれるだろうか。
 いや来るはずはない。来てはいけないのだ。新しい家族のために。
 ふと、ずっと裕太のことを忘れていた自分に気がついた。
 海里と海恋にふりまわされ、仕事に忙しくて、彼を思い出す暇なんてなかった。
 お金だけではなく、心も海里たちに助けられていた。
 千遥は布団をかぶって声を殺して泣いた。

 海里から手紙が届いたのは、数日後のことだった。
 大事な書類があるから店に来てほしい、という内容だった。
 どんな書類なのかは書かれていなかった。
 迷って、海恋に連絡した。海里に連絡する気にはなれなかった。
「心配したわ! 調査会社のおかげで無事は知ってたけど!」
 電話に出るなり、海恋は言った。次いで、英語でなにかをまくしたてられる。さっぱりわからなくて千遥は戸惑った。
「落ち着いてください、日本語でお願いします」
 ふう、と息をつく様子が伝わった。
「兄はこのままだとあの女と結婚するわ。私、あの女が嫌いなの。せっかく千遥さんと仲良くなれたのに」
 海恋は悲しそうにそう言った。
「……ごめんなさい」
 それについては、謝罪しかできなかった。
「重要な書類があるから来てほしいと言われたんです。海恋さん、どんな書類か、わかりますか?」
「会社のことはわからないわ。だけどきっと大事な書類よ。来なかったら訴訟よ」
 千遥は天を仰いだ。借金だけでも大変なのに、このうえ訴訟なんて抱えてられない。
「今度の土曜日、お店に伺います。時間はいつがいいでしょう」
「なんで私に言うの?」
「だって」
 千遥の言葉は途切れた。海里に連絡したくない、とは言いづらかった。
「……何時でもいいと思うわ。何時にする?」
 何時とも言いづらかった。お店の忙しい時間に行くのも嫌だったが、今の仕事では土日しか休みがない。社長なら時間など関係ないだろうか。
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