絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
「あ、あっ……玲良さん!?」
「俺が、婚約解消を認めるとでも?」
驚いた。驚きすぎて悲鳴をあげそうになった。しかし電話で話していたはずの玲良がなぜか突然この場に現れ、しかも後ろからコートごと抱きしめられた衝撃で、悲鳴すら上げられない。上擦った声のまま振り返ると、背後にいたのはトレンチコートとスーツ姿の玲良だった。
「ど、どうして……?」
どうして、こんなに早く状況を把握しているのか。
どうして、絢子の居場所がわかったのか。
どうして、婚約者ではなくなる絢子の元へ駆けつけてくれたのか。
「ああ、身体冷えてるな」
ベンチの前に回り込んできた玲良が、膝と腰を屈めて絢子の顔を覗き込む。そしてそのまま、大きな手でそっと絢子の頬を包み込んでくれる。その姿を静かに見上げて、またいつものように見惚れてしまう。
獅子堂玲良。絢子より六歳年上の、現在二十八歳。建設産業、不動産業、鉄道や海運などの運輸産業、ホテル経営やテーマパーク運営など、幅広い業界に企業を持ち、今もなお成長を続ける獅子堂財閥グループの御曹司。彼自身は次男であるが、由緒正しき獅子堂家の直系男子。いずれは獅子堂の一翼を担うと目されている、絢子の知る中でも飛びぬけて高貴な存在。