絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

「もう桜城にも戻らなくていい」
「ですが……」

 とはいえグラン・ヴィリオ・エンパイアホテル東京のロイヤルスイートルーム。しばらく、がいつまでを意味するのかはわからないが、玲良の負担を考えるとさすがにここでの生活は遠慮したい。暗にそう伝えるためそっとソファの端へ後退すると、玲良がにやりと口角を上げた。

「獅子堂の本邸でもいいぞ」
「む!? 無理です……っ」
「だよな。そう言うと思って、うちのホテルにしておいた」

 獅子堂の本邸ということは、獅子堂財閥の直系一族が住む大豪邸のことだ。桜城邸も広くて立派な家だと思うが、獅子堂の本邸は由緒正しき日本家屋で、家の大きさも敷地面積も使用人の数も、桜城の比ではない。年に一度新年の挨拶に行くだけで緊張に身が竦む思いをしているのに、婚約者ですらなくなった絢子がそこで生活するだなんて、とても心身が持たない。

 慌てて固辞すると玲良は笑って納得してくれたが、次に飛び出してきた言葉にはまた度肝を抜かれてしまう。

「一人じゃ寂しいだろ? 俺もここで寝泊まりするから」
「!? !? !?」

 婚約は解消になるはずだった。
 もう会えなくなるはずだった。

 だが玲良はなぜか、絢子を逃してくれないらしい。

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