絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

 甘い。常にクールで凛々しく紳士的な態度を貫いてきた玲良が、ここにきて突然優しく甘やかすように接してくるなんて。婚約解消するはずの相手を、財閥が経営する最高ランクのホテルに囲って、猫可愛がりするなんて。

(玲良さんに、だめ人間にされてしまいそう……)

 大学卒業と同時に獅子堂家に嫁ぐ予定だった絢子は、花嫁修業という名の習い事やお稽古事で、毎日の予定がみっちりと埋まっている代わり、就職活動を一切行っていない。また年度が変わったら桜城家を出て獅子堂家に入る予定だったので、当然、生活をする場所のアテもない。

 こうして玲良に甘えているだけでは、状況はなにも変わらないし、なにも解決しない。それならこれまで労働したことがないとしても、今からでも就職先を探すとか、アルバイトを探すとか、やれることはあるはず。玲良から手を離されたときに一人で生きていけるよう、準備をしなければならないのに。

「そうだ、明日は絢子に用事を頼みたい。俺の頼みを聞いてくれるか?」
「! はい! 私にできることでしたら、なんでやります!」
「ホテルから大通りに出て西に三丁行ったところに、美味い洋菓子店があるんだ。そこでケーキを買ってきてくれ、一緒に食べよう。種類は絢子の好きなものでいいから」
「……」

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