絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

 仕事どころか、子どものはじめてのおつかいレベルである。あまりの過保護ぶりに『そんな簡単なことすぐに終わってしまいます!』と文句を言いたくなる絢子だが、視線が合うと微笑む玲良はどこまでも嬉しそうだ。絢子の危機感がぜんぜん伝わっていない。

 再び絢子の髪を撫で始める指に照れながらむくれていると、ふとテーブルの上に置いてあった玲良のスマートフォンが震え出した。

 仕事の電話がかかってきたのだろうか。ならば邪魔をしてはいけない、と考えた絢子は、それを理由に玲良から離れようとした。

 だが彼が受けたのは電話ではなくメッセージだったようで、内容を確認するとすぐにスマートフォンを元の場所へ戻してしまう。

「絢子。結婚のことはゆっくりでいいが、もう一つ考えてみてほしいことがある」

 その玲良が急に表情を固くして真面目な声で絢子に向き直る。先ほどまでの空気とは違う緊張を感じとった絢子は、ドキドキと緊張しながら「なんでしょうか?」と訊ね返した。

「もう一度、DNA鑑定を受けてみないか?」

 玲良の提案は絢子の予想とは異なる意外な内容だった。玲良の問いかけにごくりと息を飲む。

「正式な鑑定を……やり直す、のですか?」
「そうだ」

 おそるおそる訊ねると、玲良がいつもの冷静な声で首を縦に振る。

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