婚約破棄直後の悪役令嬢と入れ替わってしまったヒロインの話

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 私の処遇が決まった。

 ラーシュと予想していた通りの「ブリンデル家から除籍、婚約破棄に学園退学、大聖女候補から除外」だ。

「それから王都からの追放だ」公爵からそう告げられた時、夫人は泣き崩れた。私からすると気味が悪い人だけど彼女はフレイヤ様を愛しているんだろう。

 私はブリンデル家が管理する辺境地で暮らすことになるそうだ。
 ブリンデル家が所持している屋敷もあるし、その地にある小さな教会で聖女として仕事ももらえるらしい。大聖女でなければ激務でもないし、屋敷と仕事があれば何とでも生きていける。
 私は安らかな気持ちでそれを受け入れた。

 辺境地側での準備もあるし、まだフレイヤの記憶が戻っていないと医者が診断し(まあこれは戻ることはないんだけど)ひと月ほどブリンデル家で静養を続けることになった。

 王都への心残りはないはずだった。
 学園は忌まわしい思い出しかないし、不機嫌を撒き散らす公爵は見ているだけで気分は悪いし、いつ泣き出すかわからない夫人とのお茶は心臓に悪い。早く田舎に行ってのんびり自由に過ごしたい。

 でも、ラーシュを残して去ることだけは胸を小さく傷ませる。
 一刻も早くここを立ち去りたいと思っていないのに、ひと月の猶予が与えられたことを嬉しく思う自分がいた。
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