婚約破棄直後の悪役令嬢と入れ替わってしまったヒロインの話
「誰も中身が変わったことに気づいていないのね」
「……うん。でも婚約破棄の後だし。ショッキングな出来事が起きて大人しくなったと解釈してるんじゃないかな」
「ありがとう、気遣ってくれて。でも私に友人はいないから、わかっていたことよ」

 想定していたことだ。でも、そうか。私だった『リア・ソルネ』は学園の中で本当にいなくなってしまうのだ。

 王都の上級貴族が集まる学園に、一人特例の田舎から出てきた下級貴族。
 大聖女候補は五名と決まっていて、その少ない椅子に身分の低い人間が座っているのだから、フレイヤ様でなくても面白くないし嫌われる。
 実際私に聞こえるように暴言を吐いてくるのは、フレイヤ様とその取り巻きだけではなかった。
 乙女ゲームのヒロインの現実なんてこんなもんだ、夢がない!

 だけど強制的に入学させられた学園も。一年耐えてノーマルエンドを迎えることができれば実家に戻れる。国の大聖女で働き続けるのも嫌だけど、王都に住み続けるのも絶対に嫌だった。

 穏やかに田舎で暮らしているだけでよかったのに国の都合で無理やり連れてこられて。妬みと蔑みで孤立させられて。最終的に処罰を受けるだなんて。今の状況はあんまり過ぎない? フレイヤ様に人の心はないのか。


「ラーシュだけだったのよ、友達は」

 あとは無意識に『ヒロイン』に吸い寄せられてくる攻略対象だけだ。リア・ソルネを見てくれたのは、攻略対象でもないのに私を見下せずに親しくしてくれたのは、ずっとラーシュだけだ。だから今もラーシュだけが私を「リア」と呼んでくれる。

「僕も友達はリアだけだよ。……だから、本当はずっとここにいて欲しいよ」

 ラーシュはいつも一人でいた。私といないときは一人魔術書を読んでいる。人と話すのが好きではない一匹狼だと思っていたけれど、そういえば。ブリンデル公爵家の長男でこんなに美男子だというのに、女生徒に囲まれるところを見たことがない。

「私の行先はそろそろ決まるのかしら」
「父が今日国王と面会しているみたいなんだ。明日何か話があるかもしれない。僕も明日は同席できるようにするよ」
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