婚約破棄直後の悪役令嬢と入れ替わってしまったヒロインの話

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 リアは普通の女の子だ。飾り気なく僕に話しかける。だけどその普通が僕にとって何より求めていたもので、僕は自分が悪魔ではなく人間だったことを知った。


 彼女は本物の聖女だったから、周りを惹きつけた。
 身分が低いからと嘲笑う人間は彼女の光を知らない。
 王子を始めとする学園の中心人物だけが彼女に吸い寄せられていく。

 でも、彼らはリアのことを本当に理解しているのだろうか。
 彼女の持つ魔力に引き寄せられているだけだ、僕だけがリアのことを理解している。


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 僕から魔力を受け取った後、いつもフレイヤは血を吐いて地面に這いつくばっている。
 惨めな姿を見下ろしながら「私は大聖女にはなりたくないのよ」と微笑むリアを思い出した。

 だからフレイヤが彼女を憎んで恨むのは当然とも言えた。

 まがい物が本物に叶うはずなんてないのに。
 フレイヤはくだらない虐めまで始めた。僕はこっそり防ぎ続けたけど、それを遥かに上回る回数のくだらないことを繰り返した。

 花瓶や劇薬を頭上から落としたのをなんとか防いたが、フレイヤの憎しみは徐々に燃え上がっていくことを感じた。

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