婚約破棄直後の悪役令嬢と入れ替わってしまったヒロインの話

最終話

 

 リアに初めて出会ったのは、学園最初の授業だった。
 各自好きな席に座っているけど、当然僕の隣に座る人間などいない。

「ここ、空いてますか?」

 笑顔で人に話しかけられたのなんて、何歳ぶりだろうか。
 人と話すことを忘れていた僕が言葉を紡げずにいると

「すみません。予約席でしたか? 仕組みがわかってなくてすみません」

 慌てて立ち去ろうとする彼女の手を思わず掴んでしまった。――しまった。どんな反応が返ってくるか僕は知っている。

 だけど彼女に返されたのは「座っていいんですか?」という笑顔だった。


 ただそれだけだ。ありきたりなよくあるきっかけ。でもそれだけのことが僕には眩しく、僕は彼女こそ聖女なのだと思った。


 ・


 僕を見て嫌な顔をしない人を初めて見た。不吉な子、悪魔の子。黒は不浄で不吉なもの。そう信じられているこの国で僕は忌み嫌われていた。

 ブリンデル公爵家の長男という立場にいることと、潜在的な恐怖から表立って何かを言われることはないけれど。恐怖、侮蔑、嗤笑、僕に向けられる視線に好意的なものは一つもなかった。

 いくら公爵の血をわけた一人息子だからといって、僕を追い出さないのには理由がある。

 巫女である母の血を引いた僕の魔力を分け与えると、フレイヤに浄化の力が生まれることがわかったからだ。

 そうして離れて暮らす病気の母を脅しに、フレイヤに魔力を与える存在としてブリンデル家に飼われていた。家族としては扱われない。ただの道具だ。
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