婚約破棄直後の悪役令嬢と入れ替わってしまったヒロインの話
「昨日のお父様への反応と、二人がパーティーで同時に倒れたことでまさかとは思っていたんだけど……笑い方で確信したよ。リアは困ったときはいつもそうやって笑うんだ」
ラーシュはそう言って笑いかけてくれる。彼の瞳にうつっている姿は間違いなくフレイヤの姿なのに……私を私だと気づいてもらえた。
「リア、泣かないで」
そう言われても無理だ。
今まで自分に言い聞かせるように、明るく色々考えていたけど。自分が自分でなくなったことへの恐怖がお腹の中にずっと燻っていたんだから。ラーシュが私のことをいつものように「リア」と呼んでくれる。それだけで涙がぽろぽろとこぼれ出た。
「そう、リアなの。私はリア・ソルネなの」
そう吐き出すと止まらなくなって。子どものように泣いてしまった私の背をラーシュが優しく撫でてくれた。その優しさが嬉しくて余計に泣けてしまったのだけど。
ラーシュは部屋の外に控えていた者に指示をして紅茶を用意してくれた。温かいお茶を飲み終える頃には落ち着いて涙も止まっていた。
「ごめんなさい。ずっと感情が忙しくて、自分でも驚くほど泣いてしまったわ」
「気にしないで。こんなことになれば誰でもそうなるよ」
ベッドのふちに座ってラーシュは気にすることなく言ってくれた。学園生活でも、ラーシュには何度も助けてくれた。そうそう、階段から突き落とされた時だってラーシュが咄嗟に防御魔術をかけてくれたんだ。
「それで、どうしてこうなったか心当たりはある?」
ようやく話せる状態になった私にラーシュは切り出した。
「ううん、全く」
「あのパーティーで一体何が起きたの?」
「……わからないの。あのパーティ会場で、突然目の前がぐるぐる回ったかと思ったらもうここにいたわ。一体何がどうなったのか私が知りたいくらい」