婚約破棄直後の悪役令嬢と入れ替わってしまったヒロインの話
02 悪役令嬢の弟は名無しのモブ
「僕です、ラーシュです。お姉様入ってもよろしいでしょうか」
「ラーシュ! どうぞ入って!」
処罰が通告がされるのかと思って身構えたけど、柔らかい声は私のよく知るラーシュの声だった。
「体調いかがですか?」
そっと部屋に入ってきて優しく問いかけてくれると、それだけで涙が出そうになる。知らない家で沙汰を待つだけのなか、見知った顔がいるだけでどれほどホッとするか。
ラーシュは美しい顔をしているけど、ラーシュはこのゲームの攻略対象ではない。ゲームでは登場することもなく、フレイヤ様に弟がいるという情報すらなかった。二人は全く似ていないから言われなければ気付かないけれど。
だからこそ安心して仲良くできたクラスメイトでもある。
ノーマルエンドを迎えたい私にとって、攻略対象との会話はとても気を遣う。間違って好感度をあげれば大聖女として働かなくてはならない。ラーシュの好感度はエンディングに影響はないから気兼ねなく親しくすることが出来た。
「まだ頭も身体もぼんやりしていて」
私はそう言ってから曖昧に笑った。それくらいしか言う言葉も見つからなかったのだが、ラーシュはひどく真剣な顔をして尋ねた。
「ねえもしかして、君はフレイヤではなくリアなんじゃない?」
「どうして……」
そんな言葉が降ってくると思わなかった私はそう絞り出すのが精一杯だった。