私の一等星

8.

鼻歌交じりに自動販売機の行列に並び、ポケットから財布を取り出す。
「あっ」
財布に引っかかっていたのか、日記もどきの「人間観察ノート」が落ちる。運悪くノートが開き、中身が丸見えになる。それはちょうど音根先輩のページだった。
ー音根星汰 高3 演劇部部長 高2の来栖瑠璃の恋人 押しに弱い等々……ー
あわてて拾い、ポケットにしまう。
「ちょっと」
突然肩を叩かれた。私の裏の顔である手帳(嘘)を落としてしまってすぐなこともあり少し大袈裟に体が震えた。
「何でしょう?」
貼り付けた笑顔で振り返る。直後、声をかけてきた人物に唖然とする。赤く染めたポニーテールの髪と耳には大量のピアス。学校指定ではないパーカーを羽織り、先切れたジャージを履いている。まさに不良。そして音根星汰先輩の彼女だ。実際に姿形ををみたのは初めてだが、人づてに聞いた情報と一致している。そもそも、この学校に髪の毛を赤く染めている人など一人しかいない。固まる私をよそに不良女は言う。
「あたし、3年の来栖瑠璃。1年の志村奈々って娘知らねぇ?」
「えっ?……奈々ちゃん、ですか?」
中身を見て声をかけたわけではないことにひとまず安堵するも、聞き覚えのある名前に馬鹿みたいにオウム返ししてしまった。
「ああ、ちょっとあたしの彼氏にちょっかい掛けてたからシメとこうと思ってな」
「し、シメ……!?それは流石に―」
冗談でしょとは言えなかった。ふと下に目を彷徨わせたところで手の中でバキバキに折れたシャーペンを見てしまったからである。あんなグーの持ち方でシャーペンは折れるのだろうか。否。そんなはずはない。できて両手でだろう。
「ご、ごめんなさい!知りませんので、し、失礼します!!!」
考える暇もなく反射的にそう言うと、私は全力で走りその場を離れた。教室に入り後ろを振り返る。
良かった、来栖先輩はいない。ホッと安堵のため息をつく。
しかし、来栖先輩。うわさで聞いてはいたが、本当にヤバイ。あれは、やばい。昔友達だった暴走族の男の子と似ている。つまりは、そうゆう世界の人だ。
ふと、バキバキに折れたシャーペンを思い出す。ゾッと鳥肌が立つ。そして、あれの彼氏・音根先輩もやばい。これからは定期的に部活に参加しよう。そう心に誓った。
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