私の一等星

3.

「今日はここまで。気をつけて帰れよー」
空星高等学校に入学してから一週間が経った。
「今日どこ行く?」
「駅前に新しくできたカフェはどーう?」
クラス内ではもうある程度グループが出来ている。引っ込み思案の私は今だにどのグループにも入れないでいる。が、やはり女の世界にはリーダーという名のいじめっ子がいるので、正直焦る。このままいけば確実に私がいじめの標的だ。それだけは嫌だった。あんな悪意を向けられたら、私はきっと不登校になってしまう。心の問題以前に生理的な理由で。私は臆病で人見知りな自分を押し込めて、クラスに馴染み愛されるためのベストな人格を演じる。毎度おなじみ、いつも笑顔で元気なマスコット系女子だ。
「それ、私も一緒していいかな?」
貼り付けた純粋な笑顔で、クラスの中で二番目に華やかなグループに話しかけた。
「えーと、大久保さん、だっけ?」
やはり、グズグズしていたから名前すら覚えられてない。
「違う違う。私は京久保だよ〜。京久保美怜。レイレイって呼んで!」
女はぶりっ子を嫌う。自分より美人な人を妬む。私は顔が整っているわけではないけれど、小柄で目はクリっとしていて髪は茶色くてふわふわしているから、子供みたいに見える。
「いいよいいよ!かわいい〜」
子供らしく元気いっぱいに身振り手振りすれば、ちょっとアホっぽいマスコットの完成だ。本当に、この容姿に生まれてきて本当に良かったと思う。女子関係で一番めんどくさいのは恋愛だ。
「あんた私の彼氏寝取ったでしょ」
「私の好きな人取らないでね」
なんて、陽キャ女子の間じゃ日常茶飯だけれど、私はそれに巻き込まれたことはない。だって私は皆にとって害のない子供でマスコットなのだから。
「じゃあ行こっか」
グループのリーダー格であるゆかりんこと西尾由佳がそう声をかける。正直私にはりんをつける意味が分からない。自分で言っとおいて何だけど、レイレイというのも意味不明だ。
「そだね〜」
かおりんこと大島香織がすぐさま賛同し、他のものも肯定の意を示した。
「楽しみだねー」
ゆかりんに媚を売っていると見られないように、グループの下っ端女子に声をかけた。
「そ、そうだね」
平々凡々の見た目と声、漂う新品の車につく消毒液のような匂い以前に、全くもって取り繕えていない胡散臭い笑み。根暗そうな性格も全然隠せていない。グループの誰も彼女に話しかけない。多分、近々グループに見捨てられるだろう。
「あなた、名前何ていうの?」
私はこのグループにいる以上、彼女らに陰キャと絡むつまらない奴と思われてはいけない。申し訳ないけど、私がグループに見捨てられないための駒になってもらおう。
「萩原莉沙、です。」
目をパチクリさせる。
「……萩原莉沙?」
私の脳内にある「学校での危険人物リスト」に引っかかる。
「えっと、……うん。」
萩原莉沙といえば、学年一のイケメン兼人気者として有名な丹羽那智の幼馴染ではないか。
「じゃあ、莉沙ちゃんだね。」
丹羽那智はしっかりとマークしてある。学年一の敵にまわしてはいけない人物として。人気者は敵に回すと非常に辛いのだ。友達が多ければ多い分、彼を好いている人が多ければ多い分、たった一人の人気者に嫌われただけで、彼の味方も私を嫌うのだから。実際に見に行ったけど、確かに騒がれるだけはある。黒髪黒目に目元のほくろが特徴的な色気の塊だった。まぁ、私もちょつとグッときた。とまぁ、それは置いといて、基本無口で女子には冷たい。そんな彼と唯一対等に話す萩原莉沙。
「私はさっきも言ったけど京久保美怜。よろしくね」
丹羽那智からはどんなスイーツよりも甘くて独占欲あふれる危険な匂いがした。そして、女子が莉沙ちゃんの悪口を言ったときの殺気がハンパない。あの独占欲の矛先は間違いなく萩原莉沙だ。
「私、実を言うとこのグループに入ったのは虐められたくなかったからなの。流行とかにも疎くて……でも、莉沙ちゃんとは気が合いそう。」
周りに聞かれないように莉沙ちゃんの耳元で囁く。彼女は目を見開いた。
「よろしくね莉沙ちゃん。」
彼女だけには嫌われてはいけない。あんな恐ろしい独占欲を持つ男は危険だ。
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