私の一等星

4.

「美怜ちゃんはどこの部活に入るか決めた?」
都立空星高等学校に入学してから3週間と少しが立った。部活動の入部届の締切が迫っている。
「ううん。私はまだだよ。莉沙ちゃんは決めた?」
「私は美術部かなぁ〜。……那智も美術部だし。」
顔をほんのり赤らめて俯く。顔を隠したいのだろうが、私のほうが頭一つ分背が低いのであまり意味はない。
「青春だね〜」
おっさん臭いセリフをはきながら、私は心のメモ帳に「美術部は入らない」とメモをする。丹羽那智がいる部活なんて想像するだけで恐ろしい。目をつけられないためにも、なるべく距離を取りたかった。
「じゃあ私、委員会活動があるから!」
そそくさと逃げていった彼女を、成長していく我が子を見つめる母の顔で見送ると、私はてきとうに教科書をスクールバッグに詰め込みさっさと教室を出る。硬くなった表情筋をほぐしながら、悪臭の少ない廊下を選り好みして通る。下駄箱に一番近い廊下は、第1軍極み系の女子グループが占領していたので、結局2年生の教室の前の廊下まで来てしまった。
ふと、入学式に会った王子様のような見た目の先輩を思い出す。胸がドキドキと音を立てる。無意識のうちにマスクに手が伸びた。少しマスクを浮かせる。スンっと鼻を鳴らせば、甘い匂い、カビの生えた風呂場とカビハイターが混ざったようなの匂い、ずっとむこうにいる第1軍の腐った卵のような酷い悪臭、委員会活動をする人々の安っぽさを感じるツーンとした匂いや一生懸命頑張って花を咲かせた植物の匂い、校舎を漂うホコリや花粉の匂い等々が混じり合って私の鼻をくすぐる。が、そこにあの太陽のような香りはない。ちょっぴり寂しい。
キーンコーンカーンコーン。
委員会活動の終わりを告げるチャイムが響き、私は我に返った。自分が無意識にしていたことを自覚すると、途端に恥ずかしくなる。周囲に人がいないことは分かっていたが、つい首を振ってあたりを確かめる。どうやら第1軍達はもう帰ったらしい。校舎に酷い悪臭がこびりついているがかなり匂いがマシになった。私は早足で帰宅した。
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