モブ令嬢へのジョブチェンジは失敗しました

没落は確定

1

 やはり、破滅は避けられなかったか。
 死にたくない一心で自分自身の事を変えられる事はできても、家族は無理だった。
 両親も兄も俗物で、バカみたいな儲け話に引っ掛かり借金を作ってしまった。
 この家がなくなるのも時間の問題だろう。

「イザベラ申し訳ないが、君とは婚約を解消させてもらう」

「承知しました」

 我が子爵家に釣り合うような、子爵家の青年と婚約していたが当然のように解消になった。

「婚約破棄しなかっただけでも感謝してもらいたいくらいだね。君自身は良識があっても、君の家族と縁繋ぎになると思うとゾッとするね」

 真面目でいい人だと思ったが、没落が確定したせいなのか言いたい放題だ。

「……」

 私は項垂れる事しかできなかった。
 
「ああ、そうだ。君の幼なじみがそろそろそちらに戻るらしいね。ハニートラップでも仕掛けたらどうだ?もしかしたら運よく引っかかるかもな、ははは」

 元婚約者は、バカにしたように私を笑った。
 お前のような女に引っ掛かるわけがないだろう。とでも言いたいのだろうか。

 幼なじみは、隣の領地の男爵の子息で、今は陞爵を重ねて公爵になっている。

「……君が娼婦になったら、僕は優しいから君のことを買ってあげるよ」

 私の行き着く先を暗示するようなセリフにゾクリとした。

「悪役令嬢からモブ令嬢にジョブチェンジしたけど、破滅は避けられなかったな」

 私の呟きは空に消えた。

 私には前世の記憶がある。
 この世界は、ある一人の青年の冒険記だ。

 それに気がついたのは、まだ5歳の時だ。

 鏡に映った自分の姿を見て、「痩せたらもう少しはマシになりそうなのに」と思った瞬間に前世の記憶が蘇ったのだ。

 私は、主人公のランスロットに酷い虐めをする悪役令嬢に転生していたのだ。

 ……悪役の最後は破滅と相場が決まっている。

 小説の中で、私の一族は破滅した。

 主人公を裏切り敵に情報を流し、贅沢の限りを尽くした私達の末路はギロチンだった。

 ホラーな顔をした生首の挿絵は今思い出してもトラウマでしかない。
 死んだら何もわからないけど、生首を飾られるとか本当に勘弁してもらいたい。

 だから、私は変わるしかなかった。

 幸い、まだ、わがままも許されるレベルだったので、難なくいい子になる事ができた。

 ランスロットとも親切にしたし、誰かに意地悪をされた時は必死に助けた。
 媚も死ぬ気で売った。

 陞爵のたびにおっぱいを揉ませてあげたし、魔王討伐に行く時には「処女をくれ」と言われたが、討伐をした後の楽しみに取っておこう。と、必死に宥めた。

 物語の展開では、パーティーの聖女と恋人同士になるので、余計な軋轢にならないように必死に頑張ったのだ。
 それに、何かあった時の切り札に処女は残しておきたかった。

 おっぱいを舐められたが、セーフとしておいてほしい。

「ランスロット、帰ってきたんだ。でも何のために?」

 私の頭の中は、疑問符で埋め尽くされた。
 だって、彼の恋人は聖女様である事には変わりないし、この田舎のことを嫌っているのも本を読んで知っている。

 本当に何のためだろう?

 私は首を捻る。
 とりあえず、私とは友達だから魔王を討伐したと報告しに来てくれたのかも。

「イザベラ!」

 次の瞬間、勢いよく部屋の扉が開いた。
 吹っ飛ぶんじゃないのかというくらいにだ。

 屋敷を売る予定なので、できれば壊さないで欲しいのだけれど。

 そんなことを思いながら、私の名前を呼び扉を開けた男に目を向けた。

 そこにいたのは、輝かんばかりの笑顔のランスロットがいた。
 離れていた3年間の間にまた身体が大きくなったような気がする。

 お前、聖女と婚約してよろしくやってるんじゃなかったの!?

 本の中では、魔王討伐後、公爵になり聖女と婚約して、式も待たずにバラの花びらを敷き詰めた。どう見てもやりにくそうなベルベットのベッドで濃厚なラブシーンを決めていたはずなのに。

 今頃、抜かずに3回中出しを聖女と決めているはずじゃないの!?

 小説家の人から聞いた話なのだが、抜かずに5回やってもラブシーンは一回としてカウントするらしい。

 そもそも、討伐期間内に私のことをすっかり忘れている物だと思っていた。

「え、何でいるの?!何しに来たの!?」

「会いたかったよ。イザベラ」

 ランスロットは、はちみつ色の髪の毛をなびかせて私に勢いよく抱きついた。

「……!」

 背骨が折れる!
 まず最初に思ったのはそれで、ランスロットは魔王を倒しただけあって洒落にならないくらい強い。腕力が。
 ちょいぽちゃの私の胸なんて軽く鷲掴みしたら、容易に破裂してしまうはずだ。

「イザベラ、本当に君はイザベラなのか?どうして君はイザベラなの?」

 なんだ、その問答は。世界の真理でも知ろうとしているのかこいつは。

 知らんわ。と返す前に、ランスロットは勢いよく私の唇を塞いだ。唇で。

 唇を塞いだら、質問に答えることなんてできるわけがない。だったら、質問なんてするな。

 そうこうしている間に、ランスロットの舌が唇の中に入り込んできた。

 口の中を舐め尽くすようなねちっこい口付け。
 大きな手が、私の胸を鷲掴みにして揉みしだき始める。
 薄目を開けると、ランスロットの喉が上下していて、私の唾液を飲んでいるのがわかった。

 ひいぃい!!怖いて!

 ここから出ていくときと何一つ変わっていない。
 ランスロットは、たまに、据わった目で私を見ることがあった。その度に怖くなってお尻を押さえていた。

 ここから出ていく時、ランスロットは私に何と言っただろうか。

 そうだ「処女をくれ」だった。

 スーッと、血の気が引いていくのがわかる。

 ちなみにその時のシチュエーションは、股間のモノを私に握らせてだった。ちなみに硬かった。

 あのブツのデカさに、ついているはずのない私のタマがヒュンした。
 また、身体が大きくなったから、ナニもデカくなってるよね。絶対に。

 無理無理無理!絶対に入らないって!

 乙女の秘密のトンネルに棍棒なんて入るわけがなかろうが!

 本当は一回くらいいいかな。と、チラリと頭の片隅を掠めたのだ。
 一回やっておいたら、何かあった時に助けてくれそう。という下心もあったけど、ナニの大きさに怖気付いたのだ。
 

 それに、やっぱり処女である事が生き残るための最後の切り札だった。

 こういう、デカいやつって聖女しか受け入れられないでしょう。

 だから、私は「魔王討伐が終わった時の楽しみにしておこう?」と言い。可愛く見えるように首をこてりと傾けて「おっぱい舐める?」と聞いたのだ。

 え、超恥ずかしい。

「イザベラ、そういえば、聖女が僕にポーションをくれたんだ。お手製のやつ。君が飲んでくれ、きっと、悦んでくれると思うから」

 わたしは不穏な空気をすぐに察知した。
 そのポーション私のために作られたのなら、毒入りなんじゃないの。
 聖女は、本の世界では意外と苛烈な性格だった。

 このポーション。もし毒だとして、ランスロットが飲んでも毒の耐性があるので平気だが。私は確実に死ぬ。

 ランスロットは私をころすきなのかもしれない。

「い、いらない。ランスロットが飲みなよ。聖女様が作ってくださったんでしょう?私なんかが飲んでいいモノじゃないよ」

 いらない。と言うと、ランスロットはにっこりと笑ってポーションに口つけた。

 飲まずにすんだ。と、思ったらすぐに唇を塞がれて、中身を口の中に流し込まれる。

 あ、死んだ。私。

 そう覚悟した。
< 1 / 14 >

この作品をシェア

pagetop