モブ令嬢へのジョブチェンジは失敗しました

知らない間に処女喪失

2

 カッと突然、身体に火が灯ったように熱くなる。
 熱っているようなそんな感じだ。

「あっ、……なに?」

 何が起きているのか、自分でもよくわからない。

「やはり、媚薬だったか」

 ランスロットは、俯いてとんでもないことを呟いた。

 媚薬って、媚薬よね。……媚薬?!
 あの、18禁モノで物語を盛り上げるために使われる舞台装置。
 何で、ヒロインの聖女じゃなくてモブの私がそんなもん飲んでのよ!おかしくないか!?
 とんでもないモノを飲まされてしまった。

「……」

 ランスロットは、身体を震わせている。
 怒っているのだろうか。

「ランスロット?」

「あの、クソアマ。普段はゴミカスのくせに……ごく稀にいい仕事するな。ははは」

 ランスロットは、その顔からは信じられないような汚らしい言葉を吐いて笑っている。
 ……笑い方がヒーローのそれではない。

「えっと」

 少し、いや、かなり怖くて引いてしまう。

「魔王討伐に乗じて僕に盛ろうとしたんだろうな。いつものことだが」

 ランスロットはしれっと、とんでもないことをカミングアウトしてきた。

「凄い環境にいたのね!?」

「喋っていられる余裕もそのうちなくなるぞ」

 ランスロットが、狙ったように私の乳首をツンと指先で突いた。
 なぜ、そのポジションを知っている。
 以前、ランスロットに舐められた時は、くすぐったさしかなかったのに、切なくてもどかしい。

「あっ、んっ」

 知らない間に艶っぽい声を出して身悶えてしまう。

「衣擦れも性感になるからな」

 ランスロットが私の乳首を捏ね始めて、その刺激で腰をしならせてしまう。

「んっ、治す方法は?」

「すぐに治すには、子宮に精子を注ぎ込むしかない。あとは、ずっと我慢し続けて効果は切れるのを待つかだな」

 ランスロットの手にうっとりとしかけていたところで、ようやく私は正気に戻った。
 慌てて身体を離して胸を手で隠した。

 このままなし崩しなのは、絶対にまずい。

 婚約も解消されてしまったし、処女のままでなければ婚姻も修道院にも入る事ができない。

 まずい。まずい。このまま非処女になってしまったら、私は娼婦になる以外生き残る方法がないわ。
 この世界では性病もあるので娼婦の寿命はとても短い。

「あっちに行って!媚薬の耐性はあるんでしょ?放っておいてよ。効果が切れるまで待つから」

 私は近づいて来ようとするランスロットに、必死になって両手を広げて威嚇ポーズをした。
 とにかく来ないで!お願いだから!

「実は媚薬の耐性はないんだ」

 何を言っているんだコイツは。
 私は間抜けだとわかっていても、あんぐりと口を開いてしまう。
 そもそも、何で媚薬の耐性がないんだよ!おかしいだろうが!

「何度も媚薬を盛られてるのに!?」

「ごめん」

 ごめんじゃないよ!
 謝らなくていいから放っておいよ!

 ランスロットは信じられないスピードで私のワンピースの裾の中に入り込んだ。

「あ、ちょっと」

 ドロワーズに手をかけられる。

 このままズルッと脱がされたら、なんということでしょう。
 ……ランスロットに私の秘密の茂みが丸見えになってしまいます。

 その後、どうなるか容易に想像できてしまう。

 逃げ出す方法を、どうにか……。

「は、は、初めてはバラの花びらが散らされたベルベットのベットじゃなきゃ嫌よ!大きさはキングサイズ!一晩中、世界一可愛いとか、愛してるよ。とか囁いてくれなきゃ嫌!ドロドロのぐちゃぐちゃに甘やかして、優しくしてくれなきゃ嫌!」

 小説のありえないシチュエーションを口にする。
 想像するだけで面倒臭い。言ってる自分ですら「それはない」と思う。
 セックスってぶつかり稽古だし。
 こんな状況を用意すると考えるだけで萎えてしまうだろう。
 初体験をアピールしたら、ランスロットも折れてくれるはずだ。

 そして、モブらしく華麗にフェードアウトして、聖女にランスロットを譲ろう。

 ちょっとこの人怖いし。

 しかし、私の淡い期待はランスロットの爆弾発言のせいで打ち砕かれた。

「……残念だけど、イザベラ、君は処女じゃないんだ」

「へっ!?」

 え、私、前世も今世も処女ですけどいつ喪失した?記憶に全くないんだけど。

「……一度、あのクソアマに媚薬を盛られて、気がついたら君のところにいたんだ。どうせ魔王を討伐するから前借りでご褒美もらったよ。ごめん。だから、すでに君は処女じゃない」

 なん……だと……!?

「嘘ぉ!?」

 エヘヘ。と笑うランスロットがスカートの裾から顔を出した。
 あまりの事に私は膝から崩れ落ちた。

 知らない間に、処女じゃなくなってたの!?なんで気が付かなかったの!?馬鹿なの私!あんな棍棒突っ込まれたら痛くてわかるじゃない!

 溢れ出る涙。もうどうにも止まらない。

 いつのまにか、安泰な幸せは無くなってしまった。

「やだ。やだ。処女じゃなきゃ結婚できないよ。元に戻してよ!」

 オイオイと泣き出したら、ランスロットが慰めるように私を抱きしめた。

「処女じゃなきゃ僕のお嫁さんになれないと思ってるの?可愛い。大丈夫、先にもらっただけで何の問題もないよ」

 何を言っているのかコイツは。問題大有りだって!
 なぜ、そんなに肯定的にモノを考えられる事ができるのか。誰がお前と結婚すると言った。
 会話が通じない。

「処女は先に僕がもらっただけだから、安心して僕のお嫁さんになってね」

 お前の!お嫁さんになりたくないんだよ!

 そう言ったらとんでもない事になりそうなので、唇を噛み締めて泣くしかできない。
 殺される。性的な意味で。

「うっう」

「大丈夫。処女膜をちゃんと再生してあげるから、初体験をやり直そう?その時にバラの花びらを散らしたベルベットのベッドでしよう。たくさん可愛がってあげるよ。でも、今日は我慢してね」

 言いながらランスロットが私にのし掛かってくる。

 てか、ここでするの!?

 応接間ですけど……!?

「うちの……応接間なんて嫌よ」

「ああ、そうだったね」

 ランスロットは、にっこりと笑って指をパチンと鳴らした。
 その瞬間、視界が変わった。

 いつのまにか私はベッドの上に横になっていて、ランスロットに押し倒されている。

「えっ!?」

 私が目を白黒させていると、ランスロットは「移動魔法使えるようになったんだよね」と、極上の笑みで教えてくれた。

 移動魔法は普通は使えない。
 本の中でもランスロットは使えていなかった。
 不可能を可能にする男なのか、コイツは、しかし、原動力がエロのためとは、あまりにも、情けない。

「……」

 私はベッドの上で身じろぎする。
 
 ベッドはとても大きくて、たぶん、キングサイズだ。

 これ、ヒロインとの初夜に使ったベッドなんじゃないの……。
 ゾクリと背中が泡立つのを感じる。

 絶対に逃げられない。

「さぁ、しようか?」

 幸せそうなランスロットの笑みに、私のあるはずないタマがヒュンしそうになった。
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