モブ令嬢へのジョブチェンジは失敗しました

男の余裕



 討伐メンバーと顔合わせをした事を僕は後悔した。

 なんなんだ。コイツらは……。

 弱い。弱すぎる。

 前衛の騎士は、僕のデコピン一つでダウンしそうだ。
 魔法使いよりも、僕の方が魔力は強いし、使える技の数も僕の方が多い。
 聖女に関しては、使える回復魔法は気休め程度だった。
 消失した腕が生えるくらいじゃなきゃ聖女としてダメだろ。使えない。

 こいつら、足手纏いでしかない……!

 僕は色々と言いたかったが、何でも貴族の家の生まれだから、「ノブレスオブリージュ」らしい。
 知らんわ。そんなもん。

 高いところから見下ろし、バカにしているのか。クソどもが。
 高い志を持っているとか言う奴は、大体他人を見下している。

 陞爵なんかしなければよかった。

 その崇高でクソな志のせいで、僕はイザベラとの肉体関係を我慢しているのだ。

 まさにクソ喰らえ。

 「ノブレスオブリージュ」それは、素晴らしい心意気だと思う。
 コイツらも、弱いくせに頑張っているところとか。凄と思う。でも、無意味だ。

 ……足手纏いになるのなら、無能な働き者でしかない。
 
 僕はコイツらのお守りをしないといけないのかと、膝から崩れ落ちそうになった。

 こいつら全員殺して魔王討伐に行こうか。と、本気で考えかける。

 しかし、考えを変えてみれば。

 コイツらは、肉の壁になる。呪いを受けそうな時、誰かを盾にすればいいのだ。

 そう思い受け入れることにした。

 ただ、肉の壁1、2、いや、騎士のレオンと魔法使いのマジカは話すといい奴そうだった。

「ランスロットは、故郷に恋人がいるんだろう?幼馴染なのか?」

 体格のいいイガクリ頭の男にそう言われて、僕の全身の毛が逆立つ。
 こいつ、もしかして、僕の可愛いイザベラを狙っているのか!?殺してやる!

「お前に、何の関係がある!!」

 僕は思わず声を張り上げた。
 イザベラは誰にも渡さない。
 
 最近のイザベラは、僕が毎晩胸を揉んでいるおかげなのか、随分と胸が大きくなっていた。
 世界が嫉妬する胸をもつイザベラは、以前よりも魅力が増した。
 
 最近では僕も胸の取り扱いを考えるようになった。
 
 伸びることも計算して、乳首の吸い方も気をつけているし、色素沈着しないように舐めた後はちゃんと回復魔法をかけている。
 
 毎夜、チュパチュパと僕はイザベラの乳を吸うのだ。

 それが、僕の至福のひと時でもある。
 
 ……これは、これだけは、故郷を離れても習慣は無くすことはできなかった。
 
 僕は毎晩、イザベラの寝室に移動魔法を使って侵入している。
 今夜も侵入しなければならない。なぜなら、それは世界の理なのだから。

 イザベラの二つの秘宝を思い出して僕はトリップしかける。が、慌てて正気に戻った。
 
 もしも、こいつが、イザベラを狙っているのなら殺す必要がある。

「えっと、俺、ずっと、鍛錬していたから恋人とか一人もいかなったし、その、女の子とそんなに話した事もないんだ。だから、そういうの羨ましくて」

 どうやら、コイツは人生をかけて鍛錬をしたくせに、女も知らず。さほど強くなれなかった哀れな男のようだ。
 
「もし、俺に好きな人ができたら恋愛のアドバイスくれませんか?……兄貴」

 兄貴と言われて嫌な気分ではなかった。
 要は、好きな人ができた時に、恋愛マスターの僕からのアドバイスが欲しいということなのだろう。
 異性と接する機会もなかったとは。……気の毒だな。努力は実らず弱いとは、なんと可哀想なのだろうか。

 僕はレオンに激しく同情した。

「女性と知り合うきっかけがあまりなかったので、一途な人のアプローチを知りたいんです」
 
 童貞なら仕方ないか、僕は精神的には非童貞だけど。
 くれぐれもレオンには暴走しないで欲しい。
 
「僕のアドバイスでよかったら」

 僕はにっこりと笑って、レオンと握手した。

「あ、あの、ランスロットさん。よろしくお願いします」

 魔法使いマジカは、長い前髪が鬱陶しい卑屈そうな見た目をしていた。

 コイツならイザベラが好きになることはなさそうだ。そう思うと、優しくしてやってもいいと思った。

「よろしく」

「ぼ、僕、ずっと魔塔に閉じこもって鍛錬ばかりしていたから、友達が一人もいなくて……、この旅で友達100人作りたいです!」

 ……旅の趣旨が違う気がする。
 僕たちの旅の目的は魔王討伐じゃなかったのか?
 そう思ったが、レオンはあまり気にした様子はなかった。

「お、俺は、この度で運命の相手を見つけるんだ!」

 レオンはヤベー恋愛脳をしているようだ。
 頭の中は女しか詰まっていない。童貞あるあるなのか。
 僕の頭の中にはイザベラしかないが、愛し合っているので問題はないだろう。

 ……男に必要なのは余裕だ。僕のように。

 ただ、彼らのことを冷静に考えてみると魔王討伐の為に脇目もふらずに努力し続けた。
 結果は全く伴っていないけれど、そこは評価してもいいところだ。

 友達を作りたい。恋人を作りたい。そう、思う気持ちはわかる。

 討伐メンバーとは意外と仲良くできそうな気がした。

 ……だが、聖女はお前はダメだ。
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