モブ令嬢へのジョブチェンジは失敗しました

終わりの始まり

4


 聖女は頭のおかしな女だった。
 一言で説明するのなら、思い込みが激しいタイプの相容れない人間だった。
 僕とは真逆のタイプだ。
 名前はアニーらしい。

「ランスロット様、私は貴方の運命の相手です」

 初対面からこれで、僕はうんざりとした。
 きっと、コイツの頭の中は自分にとって都合のいいものでできあがっているだろう。
 回復魔法が少し使える程度の「自称聖女」だと僕は思った。
 それでも、この国の王女かなんからしい。興味がないからどうでもいいが。

 ……この世に、聖女と名乗っていい存在はただ一人だけ。それは、イザベラだ。

 彼女の愛らしさは全銀河すら救う。僕はそう思っている。

「グッバイ、僕の運命の人は、君じゃない。イザベラだ」

 僕がそう答えるとアニーは、傷ついたような顔をした。
 正直な話、僕の運命はイザベラだが、アニーの運命の相手は、その辺にいるオークかゴブリンだと僕は思っている。

「貴方は、そのイザベラに騙されているわ!貴方の運命は私です!」

 アニーが騒ぎ出す。
 何を言っているのか僕にはわからない。
 イザベラと僕が運命なのだ。

 騙されるとはなんなんだ。
 そもそも、運命的な出会いをした僕とイザベラは、魂でつながり合っている。種付け。いや、紐付け魔法もかけたし。
 僕はイザベラが生まれ変わっても絶対に見つけ出せる自信があるのだ。逃げ出しても地の果てまで追いかけてやる所存だ。
 この愛を運命ではない。と、なぜ言い切れるのか。
 僕はイザベラが運命だと言い切れる。
 たとえ、運命でなかったとしても、そうだと思い込むことが大切なのだ。

 もしも、僕がイザベラに騙されていたとして、それがどうしたというのか。
 愛さえあればなんでも乗り越えられる。
 それに、イザベラに騙されても僕にとって些細な事だ。
 たとえ、僕の顔にできたニキビが気に食わないという理由で殺されたとしても、イザベラの手で僕の命を絶ってくれるのならご褒美でしかないのだ。
 
「たとえ、イザベラに騙されていたとして、何が問題なんだ。相互理解の上のプレイならば何一つ問題はないだろう!」 

「ランスロット!目を覚ましてください。私たちが運命なのです」

 曇り切った目をしているのはお前だけだ。
 昨晩は、魔王討伐メンバーと顔を合わせるといことで、気合を入れるためにイザベラのドロワーズの中身をくぷわぁ。して、ご開帳した。当然舐めた。
 イザベラの秘密の花園の入り口から溢れ出る蜜は極上の味だった。
 お陰様で僕は今日もガンギマリだ。頭が冴え渡っている。思い出すだけで股間が元気にすらなるのだ。

「お前に、ランスロットと呼ばれる筋合いはない……!」

 僕がそう返すと、アニーは傷ついた表情で涙を浮かべる。
 レオンとマジカが、恐ろしいものを見るような目でアニーのことを見ている。

 怖いよな。会話できない奴って、頭の中どうなっているんだろうって思うよな。
 僕はこんな人間じゃなくて本当によかった。

 僕は夜な夜なイザベラと沢山の会話をしている。
 ボディートークだ。

 会話をしないと、愛するイザベラをたくさん傷つけてしまうから。
 たくさんボディートークしているのだ。

「貴方は絶対に私のことを愛することになります」

 まだ言ってるよコイツ。

 レオンとマジカがドン引きでアニーのことを見ている。

 旅は波乱の連続だった。

 実はモンスターの討伐は、別に問題なかった。
 僕一人で全部倒す事もできるが、それでは、意味がないのでかなり力の加減をして三人でチームワークを意識して戦った。
 弱いとか思っていたが、レオンもマジカもそれなりに強かった。

 それは、嬉しい誤算でもあった。

 一番の問題は、というよりも問題人物は聖女アニーだった。

「ランスロット様ぁ」

 アニーは、甘えた声でことあるごとにしなだれかかってくる。
 その上、下品で大きな胸を僕の腕に押し付けてくるのだ。
 イザベラも胸が大きいが。あれは聖なるものだから上品な胸だ。
 そこはちゃんと区別しておこう。
 あの女の胸の感触は不愉快そのもので、奴を殴るのを我慢するのに必死だった。

 幸い、二人は良識があるので、アニーと二人きりにならないように何かと気を遣ってくれた。

 コイツら、マジでいい奴らだ。

 弱いと内心では馬鹿にしたけれど、僕の中で二人は大切な仲間になっていた。

 肉の壁であることには変わらないけれど。

 レオンもマジカも僕を羨ましがる事はなく、アニーのヤバさに恐怖しているように見える。

「女の子は怖い……ミノタウロスだ」

 僕に猛烈なアピールをするアニーの姿にレオンは女性不信になっていた。

「人は怖い……深淵が覗いている」

 人によって態度を変えるアニーは、マジカに対しては虫を見るような態度を取っていた。
 怪我の治療すらまともにしようとはしなかった。

 可哀想なマジカは人間不信になっていた。

 コイツ、マジで何しにきてるんだ?

 僕たちはアニーに対して、いつしかそう考えるようになっていた。

 知っているだろうか……。
 チームが壊れるきっかけは、いつの世も異性間のトラブルである事を。

 僕たちのパーティーはある日崩壊した。
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