【シナリオ】フレグランス・ブライダル
十八歳の誕生日
〇学校・教室
授業が終わり教科書やノートを片づけている維香。
視線を感じてそっと目だけを後ろの方へ動かす。
視線の先には結真がいた。
口はマスクで隠れ、唯一見える目元は不機嫌そうに眉が寄っている。
維香(……また見られてる)
視線を前に戻し維香はふぅ、と軽くため息を吐いた。
維香(私があの管理部屋のこと話さないか見張ってるのかな?)
校舎裏の管理部屋であったことを思い出す。
(結真の顔が近づき匂いを嗅がれたシーン回想)
匂いを嗅がれたことまで思い出して、少し頬が赤くなった。
維香(ま、まあ? 桜井くんのヒミツの場所を知っちゃったけど、それを話す友だちなんていないし。見張られたところで痛くもかゆくもないかな!)
ノートを机の中にしまっていると、今度は少し前の方から真矢達の声が聞こえた。
真矢の友人1「見て見てー新しい彼氏できたんだー。今度は見た目も結構イケてると思わない?」
真矢の友人2「どれどれ? ん、いーんじゃない? ファッションセンスもありそうだし!」
スマホを見ながら楽し気に盛り上がっている中、真矢が嫌な笑みを浮かべて維香に視線を送る。
真矢「あっ、待った待った! 維香に見られちゃうよ? こんなにイイ男、あの男好きが黙ってないって」
真矢の友人1「あ、ホントだやっば! あたしの彼氏があんなのに誘惑されるとは思わないけど、変に色目使われても迷惑だしねー」
真矢の友人2「言えてるー! ちょっと顔がよくても美人とまではいかないのに、よく人の彼氏に色目使ったりできるよねー」
キャハハ、と笑う三人。
真矢がまた視線だけを維香に向けフッと馬鹿にするように笑った。
維香(……またか)
溜息を吐き、立ち上がる。
これ以上変な言いがかりをつけられないように教室を出た。
維香(本当、バカバカしい。言い返してもいいけど、下手をすると大事になるし単純に面倒くさい)
廊下を歩きながら窓の外を見た。
維香(早く学校終わらないかな? バイトしてる方が何倍もいいよ)
〇コンビニ・夜
維香「ありがとうございましたー」
笑顔でレジに立つ維香。
そこに慌てた様子で店長の奥さんが制服のボタンをしめながら現れた。
*コンビニバイト先の店長の奥さん:茶髪の長めの髪を緩く一本に結っている。50代前半。
店長の奥さん「維香ちゃん遅くなってごめんね! もう上がっていいから」
維香「五分程度ですし、大丈夫ですよ。じゃ、お疲れさまでしたー」
軽くお辞儀をしてバックヤードに向かう維香に、店長の奥さんがまた慌てたように声をかける。
店長の奥さん「あ、待って。これ、家で食べてちょうだい」
維香「え?」
渡されたのは有名店のケーキの箱。
店長の奥さん「今日維香ちゃん誕生日でしょ? 大したものはあげられないけど、お祝い」
維香「あ、ありがとうございます!」
とても嬉しそうに維香がお礼を言うと、丁度店内から声がかかった。
客「すみませーん」
店長の奥さん「あ、少々お待ちくださーい!」
お客さんに声をかけてから維香に向き直る店長の奥さん。
店長の奥さん「ちゃんと祝ってあげられなくてごめんなさいね。お疲れさま」
維香「いえ……お疲れさまでした」
心から嬉しそうにほほ笑み、維香はケーキの箱を見た。
〇雨上がりの夜道
街灯の光が反射する水たまりを避けるように維香は歩いていた。
*維香:厚手のパーカーにジーンズ、背にはリュック。左手に閉じた傘、右手にケーキの箱という格好。
ケーキの箱を軽く持ち上げて見る。
維香「ふふっ」
嬉しそうに顔がニヤける。
維香(まさか祝ってもらえるとは思わなかったな。須美さんや真矢から少しは離れたくて遠めのコンビニにバイト先決めたけれど……あそこにして良かった)
(ケーキ楽しみ! 早く帰ろう)
足を速めようとした維香。
そこに知らないおじさんが話しかけてきた。
*おじさん:スーツ姿。ジャケットを脱いで手に持ち、腕まくりしている。酔っ払っていて顔が赤い。
おじさん「お嬢ちゃん、どーしたの? こんな夜遅くに一人でいたらあぶら(な)いよー?」
維香「え?」
ろれつも回っていないおじさんは明らかに酔っていて、街灯の明かりだけでも顔が赤いのが分かる。
維香(お酒臭っ! 面倒なのに絡まれちゃったな)
維香「今帰りますから、大丈夫です」
淡々と告げて距離を取る維香だったが、酔っ払いはしつこい。
おじさん「おっちゃん心配れ(で)す。ついて行ってあげようか?」
維香「いえ、すぐそこですから」
維香(本当は遠いけど……ついて来られても困るからなぁ)
おじさん「いやー俺もお嬢ちゃんと同じくらいの娘がいるんら(だ)よー。本当に心配だからついて行かせていただきたい!」
敬礼の真似事をして、わははと笑うおじさん。
維香(変な下心があるタイプじゃないみたいだけれど、酔っ払いな時点で迷惑です!)
困り果てた維香は周囲を見る。
だが目が合いそうな人からもサッと視線を外された。
ポツリ、とまた降り始める雨。
周囲が傘を差し始める中、おじさんが維香に手をのばした。
おじさん「ほら、行こうかー!」
維香「え? ちょっと――」
雨を気にもしないおじさんに腕を組まれそうになるが、突然逆の方から声がかかる。
結真「おい」
男の手に腕を引かれて驚く維香。
だがその相手が誰かを確認する暇もなく大型トラックが近くを通り過ぎた。
バシャアァァァ!
丁度大きな水たまりがあったため、盛大に泥水をかけられてしまう。
傘を差していなかった維香とおじさんは頭から泥水をかぶり濡れネズミになっていた。
維香「……」
おじさん「……」
数秒黙っていると、おじさんの体が怒りで震え出す。
おじさん「はあぁ⁉ ふざけんなよあのトラック! クリーニング代出しやがれー!」
そう叫びながら、おじさんは追いつけるわけもないトラックを走って追いかけて行ってしまった。
ポカン、と呆気に取られてその背中を見ていると、おじさんから助けようとしてくれたらしい男性に声をかけられる。
結真「おい、大丈夫か?」
維香(この声――)
維香「え? 桜井くん?」
軽く振り返った維香の目に映ったのは、いつも通りマスクをつけた《氷の魔王》こと結真だった。
*結真:マスクをつけ暗めのトレーナーにジーンズ姿。
傘を差している分、上半身は無事の様子。
湿気のせいで少しへたっている黒髪。目元は少し不機嫌そうだった。
結真「とりあえず大丈夫そうだな……全身濡れてる以外は」
維香「……うん」
維香(どうしよう……このまま電車乗るのもなぁ……)
結真「立花……詳しい場所は知らねぇけど、お前の家結構遠いよな? その状態で帰れんのか?」
維香「……」
どうしようかと押し黙る維香。
見かねたように結真が提案した。
結真「じゃあ……俺んちすぐそこだから、来いよ」
維香「え? いや、でも……」
結真「別に取って食ったりしねぇし。それにお前には聞きたいこともあるからな」
言い終えると、結真は維香の持っているケーキの箱をさりげなく奪い取る。
結真「来いよ」
維香「え? ちょっ⁉ 待ってよー!」
自分の傘を差し、維香は慌ててついて行った。
授業が終わり教科書やノートを片づけている維香。
視線を感じてそっと目だけを後ろの方へ動かす。
視線の先には結真がいた。
口はマスクで隠れ、唯一見える目元は不機嫌そうに眉が寄っている。
維香(……また見られてる)
視線を前に戻し維香はふぅ、と軽くため息を吐いた。
維香(私があの管理部屋のこと話さないか見張ってるのかな?)
校舎裏の管理部屋であったことを思い出す。
(結真の顔が近づき匂いを嗅がれたシーン回想)
匂いを嗅がれたことまで思い出して、少し頬が赤くなった。
維香(ま、まあ? 桜井くんのヒミツの場所を知っちゃったけど、それを話す友だちなんていないし。見張られたところで痛くもかゆくもないかな!)
ノートを机の中にしまっていると、今度は少し前の方から真矢達の声が聞こえた。
真矢の友人1「見て見てー新しい彼氏できたんだー。今度は見た目も結構イケてると思わない?」
真矢の友人2「どれどれ? ん、いーんじゃない? ファッションセンスもありそうだし!」
スマホを見ながら楽し気に盛り上がっている中、真矢が嫌な笑みを浮かべて維香に視線を送る。
真矢「あっ、待った待った! 維香に見られちゃうよ? こんなにイイ男、あの男好きが黙ってないって」
真矢の友人1「あ、ホントだやっば! あたしの彼氏があんなのに誘惑されるとは思わないけど、変に色目使われても迷惑だしねー」
真矢の友人2「言えてるー! ちょっと顔がよくても美人とまではいかないのに、よく人の彼氏に色目使ったりできるよねー」
キャハハ、と笑う三人。
真矢がまた視線だけを維香に向けフッと馬鹿にするように笑った。
維香(……またか)
溜息を吐き、立ち上がる。
これ以上変な言いがかりをつけられないように教室を出た。
維香(本当、バカバカしい。言い返してもいいけど、下手をすると大事になるし単純に面倒くさい)
廊下を歩きながら窓の外を見た。
維香(早く学校終わらないかな? バイトしてる方が何倍もいいよ)
〇コンビニ・夜
維香「ありがとうございましたー」
笑顔でレジに立つ維香。
そこに慌てた様子で店長の奥さんが制服のボタンをしめながら現れた。
*コンビニバイト先の店長の奥さん:茶髪の長めの髪を緩く一本に結っている。50代前半。
店長の奥さん「維香ちゃん遅くなってごめんね! もう上がっていいから」
維香「五分程度ですし、大丈夫ですよ。じゃ、お疲れさまでしたー」
軽くお辞儀をしてバックヤードに向かう維香に、店長の奥さんがまた慌てたように声をかける。
店長の奥さん「あ、待って。これ、家で食べてちょうだい」
維香「え?」
渡されたのは有名店のケーキの箱。
店長の奥さん「今日維香ちゃん誕生日でしょ? 大したものはあげられないけど、お祝い」
維香「あ、ありがとうございます!」
とても嬉しそうに維香がお礼を言うと、丁度店内から声がかかった。
客「すみませーん」
店長の奥さん「あ、少々お待ちくださーい!」
お客さんに声をかけてから維香に向き直る店長の奥さん。
店長の奥さん「ちゃんと祝ってあげられなくてごめんなさいね。お疲れさま」
維香「いえ……お疲れさまでした」
心から嬉しそうにほほ笑み、維香はケーキの箱を見た。
〇雨上がりの夜道
街灯の光が反射する水たまりを避けるように維香は歩いていた。
*維香:厚手のパーカーにジーンズ、背にはリュック。左手に閉じた傘、右手にケーキの箱という格好。
ケーキの箱を軽く持ち上げて見る。
維香「ふふっ」
嬉しそうに顔がニヤける。
維香(まさか祝ってもらえるとは思わなかったな。須美さんや真矢から少しは離れたくて遠めのコンビニにバイト先決めたけれど……あそこにして良かった)
(ケーキ楽しみ! 早く帰ろう)
足を速めようとした維香。
そこに知らないおじさんが話しかけてきた。
*おじさん:スーツ姿。ジャケットを脱いで手に持ち、腕まくりしている。酔っ払っていて顔が赤い。
おじさん「お嬢ちゃん、どーしたの? こんな夜遅くに一人でいたらあぶら(な)いよー?」
維香「え?」
ろれつも回っていないおじさんは明らかに酔っていて、街灯の明かりだけでも顔が赤いのが分かる。
維香(お酒臭っ! 面倒なのに絡まれちゃったな)
維香「今帰りますから、大丈夫です」
淡々と告げて距離を取る維香だったが、酔っ払いはしつこい。
おじさん「おっちゃん心配れ(で)す。ついて行ってあげようか?」
維香「いえ、すぐそこですから」
維香(本当は遠いけど……ついて来られても困るからなぁ)
おじさん「いやー俺もお嬢ちゃんと同じくらいの娘がいるんら(だ)よー。本当に心配だからついて行かせていただきたい!」
敬礼の真似事をして、わははと笑うおじさん。
維香(変な下心があるタイプじゃないみたいだけれど、酔っ払いな時点で迷惑です!)
困り果てた維香は周囲を見る。
だが目が合いそうな人からもサッと視線を外された。
ポツリ、とまた降り始める雨。
周囲が傘を差し始める中、おじさんが維香に手をのばした。
おじさん「ほら、行こうかー!」
維香「え? ちょっと――」
雨を気にもしないおじさんに腕を組まれそうになるが、突然逆の方から声がかかる。
結真「おい」
男の手に腕を引かれて驚く維香。
だがその相手が誰かを確認する暇もなく大型トラックが近くを通り過ぎた。
バシャアァァァ!
丁度大きな水たまりがあったため、盛大に泥水をかけられてしまう。
傘を差していなかった維香とおじさんは頭から泥水をかぶり濡れネズミになっていた。
維香「……」
おじさん「……」
数秒黙っていると、おじさんの体が怒りで震え出す。
おじさん「はあぁ⁉ ふざけんなよあのトラック! クリーニング代出しやがれー!」
そう叫びながら、おじさんは追いつけるわけもないトラックを走って追いかけて行ってしまった。
ポカン、と呆気に取られてその背中を見ていると、おじさんから助けようとしてくれたらしい男性に声をかけられる。
結真「おい、大丈夫か?」
維香(この声――)
維香「え? 桜井くん?」
軽く振り返った維香の目に映ったのは、いつも通りマスクをつけた《氷の魔王》こと結真だった。
*結真:マスクをつけ暗めのトレーナーにジーンズ姿。
傘を差している分、上半身は無事の様子。
湿気のせいで少しへたっている黒髪。目元は少し不機嫌そうだった。
結真「とりあえず大丈夫そうだな……全身濡れてる以外は」
維香「……うん」
維香(どうしよう……このまま電車乗るのもなぁ……)
結真「立花……詳しい場所は知らねぇけど、お前の家結構遠いよな? その状態で帰れんのか?」
維香「……」
どうしようかと押し黙る維香。
見かねたように結真が提案した。
結真「じゃあ……俺んちすぐそこだから、来いよ」
維香「え? いや、でも……」
結真「別に取って食ったりしねぇし。それにお前には聞きたいこともあるからな」
言い終えると、結真は維香の持っているケーキの箱をさりげなく奪い取る。
結真「来いよ」
維香「え? ちょっ⁉ 待ってよー!」
自分の傘を差し、維香は慌ててついて行った。