【シナリオ】フレグランス・ブライダル
維香の匂い
〇結真のマンション・バスルーム

シャワーを終えて着替え、ドライヤーで髪を乾かしている維香。

*維香:白のシャツに青のジャージ姿。

維香(洗濯はまだ終わらないよね……乾燥機までは待っていられないし、洗濯終わったら帰ろう)

維香「あ、でも桜井くん私に話があるって言ってたっけ?」

髪を乾かし終え、ドライヤーを片づける。

維香「終電までに帰らないとだし、さっさと話を聞いてしまおう」


〇結真のマンション・リビングダイニング

リビングのソファーに座りテレビを見ている結真。
テレビには金髪美女が指輪を貰ってプロポーズされているシーンが映っていた。

維香「桜井くん、シャワーありがとう」
結真「ん? ああ……」

声をかけると、維香に気付いた結真は立ち上がり彼女に近付いて行く。

維香「洗濯終わったらすぐに帰るよ。それで話があるって言ってたけれど、一体なんの――」

用件を聞き出そうとした維香の言葉はそこで途切れる。
近づいた結真が顔をグッと近づけてきたから。

維香「な、なに?」

いぶかしむ維香の首筋に無言で顔を近づけた結真は、そのままスゥッと匂いを嗅いだ。

維香「っ⁉」

驚き、一気に顔が赤くなる維香。

維香(ま、また匂い嗅がれた⁉ なに⁉ まさか桜井くん匂いフェチとか⁉)

固まったまま心の中で叫んでいる維香。
結真はそのまま維香の耳元で囁く。

結真「やっぱりな」

聞こえた声にハッとして結真の肩を押す維香。
そのまま一歩後ろに下がった。

維香「ちょ、ちょっと! 女の子の匂い嗅ぐとか失礼でしょ⁉」
結真「悪いな、でもこれが確認したかったことだから」

まったく悪びれない態度の結真は笑って維香をからかう。

結真「にしても、顔真っ赤」
維香「うっさい」

からかいに文句を返したが、《氷の魔王》の珍しい笑顔を見て維香は怒る気が失せてしまった。

維香「はぁ……どういうことかちゃんと説明してくれる?」
結真「ああ、もちろん」

溜息をついて問いただす維香に、結真は笑うのを止め真面目な顔になる。

結真「俺は嗅覚過敏(きゅうかくかびん)……ってほどじゃあないけど、生まれつき匂いに敏感なんだ」
維香「匂いに敏感?」

コテンと首を傾げる維香。
結真は頷いて続きを話す。

結真「ああ。薬を飲んで少しは緩和出来てるけど、人が多いところとかはやっぱ苦手でさ」

*リビングのローテーブルに置いてあるマスク。

結真「他人の匂いが混ざりまくった学校とかはマスクも付けとかないと教室にもいられない」
維香「あ、だから人を寄せ付けないようにしてるとか?」

ポン、と納得したように手を拳で叩く維香。
結真は困り笑顔を見せて人差し指を立てる。

結真「そ。料理とか香水とかなら刺激が強くなければ平気だけど、他人の匂いはホント無理でさ。人付き合い的に良くないなって分かってるけど近くに他人がいるのマジで無理」

*説明する結真の周りに料理(炊き込みご飯やお吸い物)と香水の容器のイラスト。

維香「……」

維香(自分の態度が悪い自覚はあったんだ……)

軽く呆れた眼差しになる維香。

維香(まあ、それなら普段の学校での様子も理解は出来るけど……)

*回想・学校で結真が告白されたシーン。

維香(でも、告白されても辛辣に返すのはどうかと思うよ?)

ジトッと結真を見ていた維香がふと眉を寄せる。

維香(ん? あれ?)

維香「でもさ、さっき私の匂い嗅いでたよね? 人の匂いダメなんじゃないの?」
結真「ああ。ホント、母親以外の匂いは無理だったんだけどな……立花の匂いは平気だ」
維香「そう、なんだ……?」

顎に指をあてて考える維香は、校舎裏の管理部屋であったことを思い出し納得する。

維香(あ、そっか。あのとき匂いを嗅いで平気だったから、その確認をしたかったってことね)

そっかそっか、と納得して頷いている維香に、結真はまた真剣な顔になって呟く。

結真「平気……っていうか」

そうして一歩近づいて来た結真に、維香はまた後退りしようとする。

維香(っ! また嗅がれる⁉)

だが、手首を掴まれ引かれてしまう。

結真「逃げんなよ」
維香「っ!」

引き寄せられ、また結真の顔が維香の首筋に埋まる。

結真「ああ……やっぱいい匂いだ。落ち着く」
維香「っ‼」

維香(ちょっ! 息がかかって……それにかすれ気味のイケボはヤバいって!)

さっき以上に顔が赤くなり、ドッドッドッと心臓の音が早くなる。

維香(や、ヤバイ! これ、すっごく恥ずかしい!)

離れたくて結真の胸を片手で押すが、今度は腰に手を回されて抱き寄せられる形になる。

結真「逃げんなって」
維香「ちょっ⁉」
結真「あ、体温上がったか? 匂いが強くなった……」

結真の頭が少し動き、髪が維香の頬を撫でる。

維香「んっ」

くすぐったさに身じろぐが、結真は離してくれない。

結真「ホント、いい匂いだ……」

結真の囁きに、維香はまた心の中で叫ぶ。

維香(もう、ホント離してーーー!)
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