知人の紹介で
「こんにちは。岡倉圭吾くん」
「え? なんで?」

 間違いない。そこにいるのはあの日ナンパ対象になっていたあの女性だ。

「総務部に勤めています。高原真由美と言います」
「この会社の人?」
「うん。今日まで黙っててごめんね? この会社の人間だって知ったら、余計な不安を煽ると思って言わなかったの。あの日、あの場所で会ったのは偶然だけど、あの場にいた連中がうちの社員だってことはわかってたんだよね。だから、岡倉くんがうちの会社の内定者だってこともすぐにわかった。内定者にナンパを強要する社員がいるっていう話も知ってたし」

 圭吾はあのとき必死になって説明していたが、この人は最初から全部わかっていたらしい。圭吾が内定取り消しの心配をしたりしたから、あえて名乗らないでいてくれたのだろう。

「全部知ってたんですね」
「まあ、あれがナンパの現場だって確証があったわけじゃないんだけどね。でも、もしかしたらって思って、あいつらに声かけようとしてた」
「え!? そんな女性一人で危ないですよ」

 この人はどれだけ男勝りなんだろうか。女性一人で男三人に立ち向かおうとするだなんて無茶が過ぎる。

「あはは。大丈夫、大丈夫。一応武道の心得はあるし。それに実は反対側に男性社員もいたんだよね。私の趣味仲間のムキムキくんが」

 その言葉を聞いてほっとしたのと同時に、圭吾は少しばかりの冷や汗をかいた。自分のあのときの行動は余計なことだったのではないかと思ったのだ。
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