知人の紹介で
「元宮さん。今日は話したいことがあるんだ」

 いつもの勉強会で、志信は顔を合わせて早々にその台詞を口にした。志信の表情があまりにも真剣で、衣月の心臓はいつもとは少し違う意味合いでドクっと脈打った。

「実は、僕、最近元宮さんといるとおかしくなることがあるんだ」
「え?」
「なんだか心臓の鼓動が速くなって苦しくて、でも、不思議と悪い感じはしなくて、ただ恥ずかしくはなるんだ」

 志信のその症状にはよく共感できた。何しろ衣月がずっと苦しんでいる症状なのだから。

 衣月は、志信が同じ症状を経験しているとわかって安心すると同時に、今まで以上の不思議な胸の苦しさに襲われた。なんだか心臓を締め付けられているような感じがして、息苦しいのに、それを快く感じてしまっている。

「……同じ」
「え?」
「私も同じ。その、最初は不整脈かと思ったんだけど、でも、安藤くんといるときだけそうなるって気づいて、病気の類じゃないってわかったの」
「……うん。僕も同じこと思った。それで、冷静に分析したら、これって所謂恋と呼ばれる症状じゃないかなって思ったんだ」

 彼も同じだ。彼も同じ答えにたどり着いていた。衣月もそうなのではないかと頭で考えて導き出していたのだ。だが、それをどうやって証明すればいいのかわからなくてずっと口にできなかった。それがまさか志信まで同じだったなんて。もっと早くにこの問題を共有しておけばよかったのかもしれない。

「安藤くんも同じ結論にたどり着いたんだ……私も安藤くんに恋をしているのかもしれないって考えてた。でも、経験がないからわからなくて」
「僕も……」
「どうやったらわかるんだろうね」
「たいていの感情は周囲の人と接していく中で学んでいるはずだよね? だったらこれも周囲から学ぶとか?」
「周囲……親とか?」
「親、うーん……あ! 圭吾ならわかるかもしれない」
「あ、確かに。岡倉くん結婚してるし、岡倉くんなら教えてくれそう」

 二人の心にパーっと光が差したような気がした。衣月と志信が友人になれたのもすべて圭吾のおかげだ。彼ならきっと正しいほうへ導いてくれるに違いない。

 衣月も志信もこうなったらもう待ったなしだとその場で圭吾に連絡をして、翌週に会う約束を取りつけた。
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