知人の紹介で
 体を離したのはどちらが先だっただろうか。思わず抱き合っていたことが気恥ずかしくて、純花が照れて俯いていれば、湊斗は突然純花の両肩を強く掴み、純花に強い意志を持った視線を向けてきた。

「純花さん。僕合格したら、純花さんに言いたいことがあったんだ」
「え、何?」
「純花さんは僕のこと好きだよね?」

 その問いに純花はヒュっと喉を鳴らした。純花は必死にその想いを隠そうとしていたけれど、でもここ最近の二人の空気がずっと親密になっていることはわかっていた。純花だけじゃなくて湊斗からも同じものを感じでいた。それでもその想いだけは表に出してはならない。教師と生徒である以上、そこに踏み込んではいけない。

 だから、純花は誤魔化しの言葉を口にした。

「……好きだよ。大事な教え子だから」
「違う。そういうのじゃない。僕のこと恋愛対象として好きでしょ?」

 はっきりと問いただしてくる湊斗に純花は何も言えない。言えるわけがない。

「お願いだよ。教えて? 僕のこと嫌い?」
「嫌いじゃないよ。嫌いじゃない……」
「僕のこと好き?」

 湊斗を想うなら否定すべきだと思うが、嘘でもそれはできなかった。

「……ごめん」
「それ、肯定と捉えるからね。大丈夫。僕も純花さんが――」

 湊斗にそれを口にさせるのはまずいと思い、純花は慌てて湊斗の言葉を遮った。

「だめ! 言ったらだめだよ? 言ったらだめ」
「なんで?」
「私は先生で、湊斗くんは生徒。それ以上でも以下でもない」
「嫌だよ。僕たち両想いでしょ? どうして誤魔化すの?」

 せっかく止めたのに。我慢していたのに。湊斗は口にしてしまった。それでもそこに進んではならないと思う。湊斗はともかく家庭教師という立場の純花が彼に好意を抱くのは問題だ。だから、この恋は実らせてはいけない。

 それに湊斗の近くにいられたのがたまたま純花だったから、湊斗は純花に好意を抱いただけだろう。大学に入って、いろんな人に出会えば、純花への気持ちはただの憧れだったと気づくはずだ。

「……たまたま近くに私がいたから、私がよく見えただけだよ。大学入ればきっと素敵な出会いがあるから」
「そんなのいらないよ。純花さんじゃないと意味がない」
「……だめ。だめだよ。そんなのご両親に合わせる顔がない。私は湊斗くんの先生だから。ね?」
「……わかった。もういいよ」

 湊斗の突き放したようなその言い方に胸が痛んだが、純花はこれでいいのだと言い聞かせて、もう何も言わなかった。きっと時間が経てば、二人とも忘れられるはずだ。
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