知人の紹介で
「それにしても従兄弟が代わりに謝罪に来るってのも珍しいよね。しかも、慰謝料ってさ」
「あー、それは健介くんが日野浦グループの人だからじゃないかな」
「日野浦グループ?」
「うん。日野浦不動産グループって知らない?」

 その言い方をされてようやくわかった。CMで頻繁にその名前を耳にするし、商業施設にもその名前を冠したものがいくつもあるのを知っている。

 具体的なところまでは知らないが、かなりの大手企業グループであることは間違いないだろう。

「ああ! えっ、嘘。そんないいとこのやつなの?」
「うん。あんまり詳しくは聞いてないんだけど、そうみたい。まあ、健介くんは日野浦のお家とは折り合いが悪いみたいだけどね」
「……いや、そりゃ、やりたい放題してたら折り合いも悪くなるでしょ……」
「健介くんは自由な人だからね。誰にも何にも縛られてない……でも、時々私のところに帰ってきては、にこって笑って『愛子ちゃん、ただいま』って言ってくれたんだよね。だから、浮気されても嫌いになれなかった」

 愛子のその表情から愛子がその男を好いていたことがわかる。そんなに浮気するやつなんてろくでもないと千景は思うし、愛子に対してひどい仕打ちをしたやつを許せるはずもないのだが、愛子の前でその男を悪く言ったことに関しては少しの罪悪感が湧いた。

「愛子……悪く言ってごめんね? 愛子を傷つけたやつを私は許せないけど、それでも愛子の好きな人ボロクソに言ってごめん」
「ふふ。ううん、いいの。千景ちゃんが、私の言いたくて言えなかったことを代わりに言ってくれてすっきりしてるの。もう限界だったから」
「愛子……」
「まあ、言う相手間違っちゃったけどね」
「それは本当にごめん……はあー。本当はあの人にもちゃんと謝らないとダメだったよね。かなり気分悪かっただろうし。うー、でも、やっぱり最後の捨て台詞が腹立つ」

 複雑な感情に身もだえていれば、愛子は少し肩を揺らしながらおかしそうにクスクスと笑っている。

「千景ちゃん。私はずっと千景ちゃんの友達でいたいからね? これからも友達でいてね?」
「ああ、もう愛子、大好き!」

 思いきり愛子に抱きつけば、愛子が「千景ちゃんがいてくれてよかった」なんて言ってくるものだから、千景は腕の力をさらに強めて、愛子をぎゅうぎゅうと抱きしめていた。
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