知人の紹介で
 和巳が「答えてやる」と言ったのは本心だったようで、千景が気になることを訊いてみれば、和巳は話せる範囲でと言いながらも答えてくれた。

 そうしてわかったのは、この和巳という男は、普通であればとても千景なんかがお近づきになれるような人物ではないということだった。

 和巳は若干二十九歳にして、日野浦グループのメイン事業である商業施設の不動産開発をする会社の専務を務めているらしい。

 ホールディングスの現社長は和巳の伯父。つまりは健介の父親で、本来であれば、健介が後継者だったらしい。だが、健介本人がまったく日野浦グループの事業に興味がなく、早い段階から自由に生きていたそうで、すぐに後継者からは外されたらしい。それは本人の希望でもあったそうだ。

 次期社長についてはさすがに話してくれなかったが、ちゃんと後継者は育ててあるらしい。だから、和巳が社長の座に就くことはないし、自分と接していても社長とのコネクションはできたりしないぞ、なんて冗談めかして言っていたが、そんな人とは恐れ多くて近づきたくはない。あの大企業グループの子会社の専務というだけでもう、千景からすれば雲の上の存在だ。

 だが、和巳本人は自分は至って普通の人間だと言う。あのカフェにいる時点で庶民的だろうと言われて、千景は確かにと納得しかけたが、こんな一見さんお断りの雰囲気を醸し出しているバーを知っている時点でやはり普通ではないと思い直した。

 なんだか日野浦のことを訊けば、どんどん和巳が遠い存在に思えて落ち着かなくなって、結局最後のほうは本当にどうでもいいことばかりを訊いていた。

 犬と猫どっち派だとか、好きな芸能人は誰だとか、生まれ変わったら何になりたいかとか、本当に次の日には忘れていそうなそんなことばかりを訊いて過ごした。
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