知人の紹介で
 再び和巳の車に乗り込み、自分の早とちりに一人反省して黙り込んでいれば、和巳は千景のほうを向いて、片眉を上げながら言葉を発してきた。

「さて、誤解は解けたかな?」
「……ごめんなさい」
「どうして避けた?」
「恋人がいると思ったから」
「いたら避けるのか?」
「当たり前でしょ。誤解されたら困るし」
「それだけか? 本当にそれだけの理由で避けたのか? それだけでどうしてあんなに取り乱す?」

 恋人がいるから会わないというのは建前だ。本当は自分の気持ちを蔑ろにされたのがつらくて、この男に会うのを避けたのだ。だが、本人を前にそれを言えるわけがない。言ってしまえば、自分の想いを認めて、さらにはその想いをこの男に知られてしまうことになる。

 だから、どうしても千景は和巳の問いに答えられなくて、また黙って俯いた。

「だんまりか? 言えないのなら、もう塞いでしまおうか」

 和巳は千景のほうへ身を乗り出したかと思うと千景の顔を無理やり上げさせ、問答無用で口づけてきた。きっと千景が力いっぱい抵抗したのなら避けられた。でも、和巳から強い瞳で見つめられれば、顔を逸らすことなんてできなかった。そのまま受け入れてしまった。

「んっ……強引なのは嫌い」
「くくっ。そうか。じゃあ、選択肢を与えてやるよ」
「え?」
「この車の行き先は二つに一つ。一つ目の行き先はお前の自宅。そっちを選べば、俺は真っ直ぐにお前を自宅まで送り届ける。そして、そのあとはもうお前に関わらない」
「っ……」
「二つ目の行き先は俺の自宅。そっちを選べば、俺は今日お前を帰さない。もちろんその先もな。どうする?」

 さも譲歩したと言わんばかりの表情をしているが、この男は何も選択肢なんて与えてはいない。この状況で取れる選択肢なんて一つだ。きっとこの男はそれをわかっていて、こんなことを言っているのだ。

「……二択だなんてやっぱり強引……」
「そうか? 二択も用意してやってるだろ? で、どうする?」
「……ずるいのよ……もう、わかったから。あなたの、あなたの自宅に連れてって」
「ふっ、いい選択だな。じゃあ、行こうか」
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