人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
本物の花嫁
ヴァイオレットは、指先が少しずつ冷たくなっていくのを感じた。未だに仕事に戻ったミモザに対し、イザベルは「本当に使えないメイドだわ!」と悪態を吐いている。その恐ろしく歪んだ表情を目にしただけで、ヴァイオレットの中にランカスターの屋敷での最悪な日々が蘇ってしまった。

(あの日々が、ほんの少し前まで当たり前だったのに……)

罵倒され、メイド服を汚されたり破かれたり、蔑まれ、何度隠れて泣いたかわからない。少し思い出すだけで、ヴァイオレットの心の内側にあるすっかり瘡蓋となっていた傷口がまた開いて血が出ていく。

「チッ!フェリシアーノ様に「使えないメイドを雇っているショボい貴族」なんて思われたらどうするのよ!」

ブツブツと文句をイザベルが言うたびに、ヴァイオレットは恐怖にビクリと肩を震わせる。その後数秒間イザベルは怒鳴り続けた。たった数秒のことだというのに、ヴァイオレットには数時間のように感じ、頼りなく震えた手でドレスのスカート部分を強く掴む。

ヴァイオレットがイザベルから目を離せないでいると、ようやくイザベルはヴァイオレットの存在に気が付いたのか、「しまった」と言いたげな顔を見せる。
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