両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 獣医師からは『見つけるのがもう少し遅かったら、危なかったかもしれません』と言われ、本当にギリギリの状況だったんだと知る。
 体温が下がっているので加温器具で小さな体を温め、ブドウ糖を少しずつ口に含ませる。
 子猫が小さくあくびをしてからこてんと眠ったのを見て、獣医師は『この様子なら大丈夫でしょう』と表情を緩めた。
『よかった……』
 涙を浮かべながらつぶやいた彩菜を見て、愛おしいと思った。そして、好意を自覚したとたん、彼女のすべてがかわいくてたまらなくなった。
 それまで俺は彩菜を妹のように大切に思っているつもりだったけれど、本当はもっと前から彩菜の純粋さや優しさに惹かれていたんだと気付く。
 悠希に対する劣等感は、彩菜への気持ちのせいもあったんだと思う。
 それから保護した猫は俺の実家で飼うことになり、名前は彩菜が『タビ』とつけた。足の先が靴下を履いているように白いから、という理由だった。

 俺の話を聞いた彩菜は息をのんだ。
 自分の気持ちを落ち着けるように大きく深呼吸をしてから俺を見る。
「あの、翔真さんは大きな誤解をしてます」
「誤解?」
「お義父様とお義母様のことです」
 彩菜がまっすぐに俺を見ながらそう言った。
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