鏡と前世と夜桜の恋
雨袮と千寿のやり取りを見ていると… この2人は相変わらずだなと思う。
「本当?ねえ本当に?」
「本当だよ」
雨袮と同い年の千寿は、同い年と思えないほど重度のメンヘラで性格に難があり雨袮が居ないと生きて行けないが口癖。
「ならあの子より私が1番って言って!」
「え、ここで言うの?」
「そうよ、私が1番なんでしょ?」
「うん、千寿が1番だよ」
「わーい♡」
喜ぶ千寿を見てにこにこ笑う雨袮… 雨袮は昔から千寿に甘過ぎる。
2人のやり取りを黙って見ていた蓮稀は苦笑。お前等バカっぷるかよと内心思いながらも " 用があるから " と、片手を上げ2人に挨拶をしてその場を後にした。
蓮稀が向かったのは蓮池。

自分の字が入っているこの場所は蓮稀にとって大切な場所… 時間が出来ればついつい立ち寄ってしまうほど。
雪美が政条家の蔵が落ち着くと言ったように、蓮稀にも落ち着く場所がある… それがここ。蓮の花が見事に咲くのはほんの短期間、それでもこの場所が好きだった。
縁談は上手く行ったのだろうか?
兄としての心配はあるが、絶対口に出したくない。なんでなのかと聞かれても… どうしてなのか俺自身も分からない。
優雅に泳ぐ鯉を眺めているとなんとなくため息が出る。
「珍しく溜め息なんて吐いちゃって蓮稀らしくないじゃない、どーしたの?」
今日はやけに知り合いに会う日だな
振り返らなくとも誰だか分かる、声の主は蓮稀と同い年の『鈴香』だった。
「んー、何となく」
「今日の縁談は?」
縁談縁談と誰もが聞いてくる。
まあそりゃあそうか、政条家の息子が縁談となれば街中が大騒ぎ… 鈴香の耳にも入っているだろう。
「咲夜に追い出されたよ」
蓮稀の言葉を聞いてくすくす笑う鈴香。
「嫁は取らないって公言してる蓮稀が縁談って聞いた時はびっくりしたけど… 蓮稀はそれで良かったの?」
思いもよらぬ鈴香の問いかけに一瞬、黙り込んだ蓮稀は " 俺はあんな小娘に興味はない! " と、答える。
鈴香は政条家と古くからご縁のある、まさに絵に描いたようなお嬢様… 歌うことが大好きで自ら花の手入れをしいつも鼻歌を歌っている。
「何だか落ち込んでいるように見えたから… 実は私も蓮稀のお父上様から縁談の話しを頂いてるの。仕方ない、私がお相手になってあげましょうか?なーんて、ふふっ」
「… 戯け者が」
父上も余計な事を… 不機嫌そうに顔を顰める蓮稀。
「お父上様達は大変ね、私のお父上も縁談縁談… 娘を嫁がせる相手は厳選するとピリピリしているもの」
鈴香の話しを黙って聞いていた蓮稀は一言 " 俺は嫁は取らぬ、帰る " と、言って鈴香を残し蓮池から来た道を引き返した。