鏡と前世と夜桜の恋
-- 縁談当日。
雪美は政条家の敷居を初めて跨ぐ… 部屋には雪美と咲夜と蓮稀、そして双方の両親も揃い向かい合わせで座っていた。

「なんで蓮稀も居るんだよ… おかしいだろ、ゆきとの縁談を頼んだのは俺なのに!」
思わず声を荒げる咲夜に対し咲夜の父は無言の圧… わざとらしく咳払いをする。
黙り込み下を向く咲夜…
雪美は今日が何の日か全く理解していないようで、蓮稀の姿を見つければ嬉しそうに " 蓮稀、蓮稀 " と、話し掛けていた。
今日が何の日かわかってんの?頬を赤く染めたり、あわあわしたり、喜怒哀楽を豊かに出しながら楽しそうに蓮稀と話す雪美を見ているとイライラする。
「ゆきを嫁に貰うのは俺だ!」
何で?何で?何で?思わず声を荒げ立ち上がった咲夜は対抗心剥き出しにして蓮稀を睨み付ける。
「… お前から取ろうなど1mmも思ってないのに」
蓮稀は " はいはい " と、言いながら考え方がまだまだ幼い咲夜に可愛さを感じつつ笑いながら部屋を出て行った。
縁談中ゆきは蓮稀のことを考えていたんだろうか… 蓮稀じゃなく俺が席を立つべきだったのだろうか、色んな不安と苛立ちは消えなくて
「ゆき、団子食いに行くぞ!」
「… え?さく?」
こんな縁談なんて無意味だ。
縁談が終われば即、雪美の腕を引っ張り立ち上がらせて挨拶もせずに家を出る咲夜。
「さく?父上達の話しはもう良いの?」
突然家を飛び出す相手の行動にきょとんとする雪美の腕を引き無言で歩き続ける咲夜。
暫く歩き、団子屋に到着… 長椅子に座った咲夜は隣に座る雪美に再度問いかける
「ゆき、お前は俺のになったんだぞ?」
「さくの? あー、私はこのみたらし団子がいい!」
え、は?みたらし団子?
色恋よりも団子、雪美らしいと言えば雪美らしいけど… 予想外の返答に思わず言葉を詰まらせる咲夜。
「このみたらし団子をさくと食べるの、とっても素敵でしょ?」
満面の笑みで微笑む雪美に咲夜は…
「ならみたらし団子と俺、どっちが好き?」
恐る恐る聞いてみる。
「さくと食べるみたらし団子が好き!」
「は?」
「素敵だと思わない!?」
「あ、う、うん… 」
みたらし団子には負けるけど…
蓮稀じゃなく俺の名前が出た、それだけでも嬉しく頬を赤くした咲夜はこれはもう完全に惚れた弱みだと悔しさを感じながらも幸せを噛み締めていた。
一方、縁談の席を離れた蓮稀は…
" 咲夜の縁談と話しは通してあるが、お前があの子を気に入っているのなら年齢的には蓮稀… お前の方が上。今日の縁談お前も立ち合いなさい、嫁に貰うのはお前でも構わないんだぞ "
咲夜が不在の時に両親に言われた言葉… 俺があの小娘を?思わず鼻で笑ってしまった。
咲夜のあの態度、余程雪美の事が好きなんだろう、そこまで相手を想えるとは…

縁談の席を立った蓮稀は1人でよく行くある場所に向かっていた。
「… あれ蓮稀?」
背後から声を掛けられ振り返ると、蓮稀より年上で最年長になる『雨袮 (あまね) 』と雨袮と幼馴染みの『千寿 (ちずる)』が居た。
雨袮は、蓮稀と咲夜が仲良くしている男友達の1人で特に仲が良く、世間はこの3人を 【 色男三人衆 】 と呼んでいた。
「雨袮と千寿か… 」
「こんな所で何やってんの、今日って確か縁談の日じゃなかった?」
「この遠り咲夜に追い出されたよ」
雨袮の問いかけに、苦笑しながら話す蓮稀。
" 咲夜はこゆきのこと余程気に入ってるんだね " と、微笑えましく笑う雨袮に対し蓮稀は " ガキ同士だから気が合うんだろ " と、一言。
蓮稀から見ると雪美は5歳年下、11歳と6歳… 子供に見えてもまあおかしくはない。
「あの子のどこが良いの?私にはこゆきの魅力が分からないんだけど」
「千寿… 」
「だってそうじゃん… 食べてばっかで女らしさの無いこゆきのどこが良いの?雨袮はあの子を可愛いなんて思ってないわよね?雨袮は私だけなんだから…」
「勿論、千寿だけだよ」
2人のやり取りは毎回こんな状態… 千寿の失礼な発言に慌てながらもどんな千寿の我儘も受け入れ微笑む雨袮。