鏡と前世と夜桜の恋
-- 数年後。
春夏秋冬、四季は色んな表情を持っている。その時その時の四季の機嫌と時代に合わせ人々は生きている… 蓮稀もまたそのうちの1人。
変わり映え無い日常に刺激を求め、蓮稀は色んな場所を遊び歩いた。政条の長男だと言えば誰もが歓迎し綺麗な顔立ちに惹かれる女も群がる程だった。
咲夜と雪美の縁談は無事に成立したと父から聞いた。それ以降、咲夜と雪美は2人でよく出かけるように…
蓮稀もまた雪美と会えば挨拶や他愛のない会話はするし妹のような存在、日常生活に何の不満はなかった。
ただ、その中で自分でも説明出来ない… 何とも言えないモヤモヤがずっと引っかかっていた。
幾日が過ぎたであろう
山の木々は葉を繁らし、蝉の声は空気を震わせる、午の刻を過ぎた頃には陽炎が道の向こうにちらちらと立ち夏の盛りも極まる。
「暑いー」
大きくなっても食い意地の変わらない雪美は、いつもの団子屋で団子を頬張り、足をタライに入った水に付け、暑さを凌ぎながら扇子で扇ぐ。

団子屋の前を通りかかった蓮稀に気付いた雪美は " 蓮稀ー!" と大声で名前を呼び無邪気に笑う。
「また団子か?… 太るぞ」
「いいの!!蓮稀も涼みに?」
「雪美の姿が見えたから立ち寄った」
私の姿が見えたから?その言葉にドキッとし頬を赤らめた雪美はタライに入れた足をバタバタさせる。
「ま、またそういうことを… 」
赤くなった雪美は口を尖らせ不貞腐れている… そんな姿を見た蓮稀はくすっと笑い雪美の頭を優しく撫で、着物の裾を上げ自分も団子を頼み、雪美と同じタライの中に足を入れた。
「あ… // 」
足が当たる… 雪美は赤く染まる顔を誤魔化すかのように必死で扇子で扇ぐ。
「雪美、夕涼みの意味を知っているか?」
「… 家の外に打ち水したり?」
人の気も知らず何を言い出すのかと思えば… 突然の質問に答えた雪美の答えを聞き蓮稀は鼻で笑う。
「え、は、何!?」
「夕涼みは気温が低い所に足を伸ばしに行く。例えば川岸… そうすると川から吹く風が心地良いんだよ」