鏡と前世と夜桜の恋
蓮稀の話しに着いていけず、きょとんとした表情の雪美は突然、何かを思いつく。
「夕涼み… 蓮稀!ならあそこに行きましょ!今からの時刻なら涼しくなるんじゃないかしら!」
雪美は残った団子を口の中に全て放り込んで完食し足をタライから出し蓮稀の腕を引っ張る。
「は?待て。まだ俺の団子… 」
蓮稀の言葉なんて一切聞いてない。
「いいから早く!!」
絶対あそこ!と、自信満々気な雪美は蓮稀の腕を引っ張り団子屋を後にしてそのままある場所に連れて行く…
蓮稀が雪美に連れて来られたのは、団子屋の近くにある穏やかに水の流れる綺麗な川だった。
「暑いじゃない、嘘つき… 」

「蓮稀の話しを聞いてこの場所が浮かんだのに…」
辺りを見回しながら雪美は頬を膨らませながら文句を言う。基本人々は政条と言いう名だけで誰もが謙遜し文句など言はない。
家柄関係なく俺と対等に話してくれる… もしかしたら雪美は他の人とは違うのかもしれない、思わずドキッとしてしまった。
「まだ夕涼みの刻には早い、ここを下り川下に行こう」
蓮稀の提案で、今度は雪美が蓮稀に着いて歩いて行く。
蓮稀の背中は大きいな… 蓮稀の後ろ姿を眺めながら歩いていると突然振り返った蓮稀は照れ臭そうに手を差し出してくる。
「え?」
「え、じゃなくて手…!! 」
雪美は赤くなりながら蓮稀の手に自分の手を重ね、手を繋いで横並びに歩く。
歩いてる間、2人の間に会話はなかったが不思議と心地良さを感じた。
川下に着けば座れる場所を探し…
「蓮稀、ここにしましょ!」
2人で座り涼しい風が吹いて来る度、雪美は目を輝かせ嬉しそうにはしゃぐ。
そんな無邪気な雪美に思わず見惚れ… 本当に無意識だった。
相手の髪に手を伸ばし " 可愛いな… " と、気が付いたら蓮稀は小声で呟いていた。
「… あ、いや、なんでもない// 」
突然の出来事に雪美は胸が高鳴り頬を染め蓮稀を見るが、耳を赤くした蓮稀はそれ以上何も言わずそっぽを向いていた。
-- 数日後。
蓮稀と雪美は待ち合わせの約束などはしない。団子屋の前を通れば雪美は必ず居る… 看板娘かのように高頻度で美味しそうに団子を頬張っている。
「甘い... たまには甘い物も悪くない」
「は!私の団子!!」
団子屋の前を通りかかった蓮稀は気付かれぬよう近付き1番上の団子を食べた。
「… よく飽きないな、また同じ物を食べているのか?」
いつの間にか2人は自然と会うように… と言うより蓮稀自身が団子屋の前を自然と通るようになっていた。
「わーたーしーの団子、返せ!!!」
蓮稀に食べられたみたらし団子の恨みは深い… 5歳年上の蓮稀の胸ぐらを掴みぶんぶん振り回す。
相変わらずの食い意地… そう思いながらも蓮稀は " 今日は咲夜と一緒じゃないのか? " と、問いかける。
「さくは今お勉強中!だから終わるまで待ってるの!」
咲夜の話しを出すと楽しそうにする雪美を見ていると胸が痛い… それでもその表情が可愛いなと思ってしまうのは何故だろう?