鏡と前世と夜桜の恋
-- さく、いつ会えるの?
胸の内でそう呼びながら、雪美は今日も団子屋に立ち寄り咲夜との約束の場所に来る。甘いみたらしの香りは一瞬だけ心を和らげるが、噛みしめるほどに喉が詰まる。
咲夜との約束の場所…
最終列車の時刻が過ぎるまで雪美はそこから離れない。
人影が揺れる度、胸が跳ねる。

―― 今度こそ。
―― 今日こそ。
だが、夜は無情に更けていく。
咲夜が来なければ申又の待つあの家へ戻らねばならない。息が詰まるほど重い戸を開ければ待っているのは冷え切った視線と暴力、そして荒い声。
身体中痣だらけ… この人はいつもそう、それでも雪美は約束の場所に毎日欠かさず通い続けた。
本当は逃げたいけれど逃げてしまえば、咲夜が戻る場所を失ってしまう。
「… 死んだなんて、嘘よね」
星のない夜空を見上げ、雪美は小さく祈る… お願い生きていて。私が待っていることどうか忘れないで。

どれだけ殴られようが、どれだけ乱暴に抱かれようが雪美は弱音を吐かず絶対に屈しなかった。
「お前は俺のものだ!あやつなどに負けん!渡してたまるか!!」
その言葉は鎖のように絡みつき逃げ場を奪う。
申又は問答無用で雪美の髪を鷲掴みにし引き摺り歩き、寝室へと連れ込む… 抗う余地など与えられない。
―― 今宵もまた、長い夜が始まる。