鏡と前世と夜桜の恋
あったのは、完全な拒絶だけ。
それが陽菜の癇に障った。
「許さない、許さない、許さない… !!!」
叫びながら陽菜は咲夜を突き飛ばす。
「私を見捨てたら… あの子も、ただじゃ済まないわよ!!!」
その言葉を聞いた瞬間。
咲夜の中で最後の躊躇が完全にシんだ。
「… それでもだ」
ふらつきながら、立ち上がる。
血に濡れた顔に引き裂かれた着物。
それでも背筋だけは折れなかった。
「もう終わりにしてくれ」
陽菜の目が見開かれる。
「… 見捨てるの?… この私を?」
咲夜は、ゆっくりと屋敷の戸へ向かう。
「やだ、絶対やだ、待って!咲夜さん… 」
戸を開けた瞬間、風が吹き込み血の匂いが少し薄れ、陽菜の狂った笑い声が響く。
「許さない許さない許さない!!!戻って来なきゃ咲夜さんの大切な人がどうなるかわかってるでしょ? 見捨てられないでしょ?だって咲夜さん、とっても優しいから… 」
咲夜は振り返らなかった。
「優しいんじゃない」
屋敷の門をくぐり血の跡を引きずるように歩き出しながら、咲夜は吐き捨てるように言った。
「は?」
「… 俺はまだ壊れてないだけだ」
背後から、足音が乱れる。
「嫌… !絶対に嫌!!行かないで!!」
陽菜が追いすがり、咲夜の着物を掴む。
布が引き攣れ、糸が鳴る。
咲夜は足を止め、ゆっくり振り返った。
その目には怒りも哀れみもない、ただ尽きた人間の目。
「… お前とは話にならない」
低く、冷たい声。
「話そうとすれば繋がりを求める。拒めば、狂って暴力を繰り返す」
陽菜を、見下ろす。
「俺も人間だ、限界はある」
その言葉を陽菜は理解しなかった。
理解する気すら、なかった。
ふいと顔を背け、まるで日常会話のように言う。
「そう?咲夜さんが私を愛してくれないなら… ゆきちゃんを消すだーけ」
悪びれもなく、淡々と。
「だってズルいんだもん、咲夜さんにこーんなに愛されてるなんて」
「… ゆき」