鏡と前世と夜桜の恋
数日後… おすずから届いた申又への一通の文がすべてをかき乱した。
あの日以降、長崎から戻った雪美は、京で大人しくしていた。少なくとも " 外から見れば " 。
朝は団子屋に立ち寄り、甘い匂いに紛れて人の声を聞き、日が傾く頃になると、咲夜が来ると信じて約束の場所に向かう。

誰も来ないと分かっていても、足は勝手にそこへ向かう…
そして夜になる前に申又の屋敷へ戻る。申又の使用人に監視されていることに気付いた雪美は、それだけの日々を、何事もなかったように淡々と繰り返していた。
おすずの文を受け取り、読んだ申又は顔色を変え、凄い形相で雪美を睨みつる。
「お前、長崎に行ったのか!?」
怒鳴り、返事を待つこともなく手を振り下ろした。鈍い音がして雪美の身体がよろける。
それでも雪美は顔を上げ、何事もなかったように言った。
「知りません。誰からそんな話を?」
「とぼけんじゃねえ、咲夜はもう死んでる!墓参りにでも言ったんだろ!!」
申又は歯噛みし声を荒げるが、雪美は静かに首を傾げる。
「誰か私を見たと?私はいつもの場所でさくを待っています。証拠はあるのですか?」
死んだと聞いても
その目には怯えも焦りもなかった。
申又はそれ以上問い詰めることができず、舌打ちをして席を立ち… 早急に折り返しの文をしたためた。
-- 一方、おすずの屋敷では…
おすずは、再び咲夜を呼び出していた。
「あの小娘と会ったのかい!!!」
声は静かだが、探るような目が向けられている。咲夜は肩をすくめ、曖昧に笑った。
「さあな」
そこへ陽菜が口を挟む。
「見たわ。私は、この目で見たのよ!!」
咲夜は一瞬だけ陽菜を見つめ、それからわざと困ったような顔を作った。
「… 陽菜、覚えていないのか?」
「その日お前は俺を刺した。そして俺の目の前で倒れたじゃないか」
陽菜の表情が凍りつく。
「俺は街に用があって出ていただけだ。それ以外のことは知らん。夢でも見たんじゃないのか?」
焦点が合わないほど荒れ狂っていた陽菜がハッキリ覚えている訳がない… 咲夜は心配するふりをし、だが、その言葉は刃のように陽菜の記憶を切り裂いた。
――刺した?
――倒れた?
確かに、血の感触はある… だが、その後のことが、どうしても繋がらない。
陽菜は混乱し、言葉を失った。