鏡と前世と夜桜の恋
その頃、別の座敷では申又が苛立ちを隠さずにいた。
豪奢な屏風を背に、徳利を乱暴に置く。
(八重桜… 雪美。あの女がどんな顔をするか)
初めての客が自分だと知ったときの、あの絶望、それを想像するだけで、口元が歪む。
「申又様、お待たせ致しました…」
襖がすっと開き、女将が頭を下げた。しかし、後ろに立つ女は雪美ではない。
「…俺は八重桜を指名したはずだ」
低く冷たい声。
「どうしても八重桜を望まれる方がいらして… 本日はこの子でどうかお許しを」
女将は深く深く頭を下げた。
申又の不満げな舌打ちが、静まり返った座敷に重く落ちる。
一方 ――
咲夜は楼主に案内され、迷いなく二階へ上がった。
廊下の奥が雪美の部屋。
襖を開けると、そこには花魁姿の雪美がいた。

豪奢な打掛、結い上げられた髪、白粉に縁取られた紅い唇。
「え、あ… さく… あまり見ないで…// 」
雪美は袖で顔を隠すようにして俯く。
「そんな格好も似合うんだな」
咲夜はゆっくりと部屋へ入り雪美を見つめた。
いつもの雪美とは違う。だが、どこか不安げに揺れる瞳は変わらない。
その頬がみるみる赤く染まっていく。
(可愛いなあ)
咲夜は鼻で小さく笑った。
意地悪を言われムスッとする雪美を見た咲夜は… 愛おしい相手を真っ直ぐ見つめ、そのまま押し倒す。
「さ、さ、さく!駄目!こういうのは… 駄目!」
頬を赤く染めて恥ずかしがる雪美の反応を眺め、楽しむ咲夜は着物の帯をゆっくりと解き胸元を曝け出させた。
「駄目、ま、待って… // 」
曝け出された場所を隠す様に胸元を隠しながらバタバタ暴れる雪美。
「何を言っている。俺はしっかり金を支払ったぞ?と言う事は、ゆきの事は好きにしていいと言う事だ 」
" 可愛いなあ "
「もう!!!// 」
ゆきに対する想いが今まで以上に自分の中で溢れ出しているのを感じる。

どんな形でも構わない。
ゆきに (さくに) 触れられて、側に居る事が出来るなら…
意地悪っぽく笑う笑い方は昔と変わらないのに… いつもと違う咲夜の表情にドキドキする雪美は恥ずかしさから視線を逸らす。
-- ゆき、愛してる。
-- さく、私も愛してる。
ずっとお前に (貴方に)会いたかった