鏡と前世と夜桜の恋

足を止め、懐から取り出す。

紙の感触が、やけに現実的だった。

そこに書かれているのは… 申又

そして、母のおすずや藤川、陽菜話し

静かに目を走らせ、読み進めるごとに、咲夜の表情は冷えていく。

「… 申又」

コイツはおすず一家の長男。

その名を、低く吐き捨てる。


記されている内容は、どれも胸糞の悪いものばかりだった。

悪事の数々。

だが、そのどれもが表に出ることはない。

「… 家族全員で揉み消し、か」


鼻で笑う。

「さすがだな」

権力と金で塗り固められた腐った現実。

思い出すのは、あの監禁の日々。


あの家族は権力を乱用しどれだけの罪を重ねて来たんだろうか… 人の命を命と思わないアイツらは、どうしてのうのうと暮らしていられる?

「よく調べ上げられてる… ゆりが? いや、ゆりは文を預かったと、一体誰が… 」

考えてるうちに過去の出来事を思い出す。



おすずの声。

「陽菜と結婚すれば、申の代わりになればいいのさ」

あの時の、歪んだ笑み。

そして――

「申 … 」

ぽつりと呟く。

それが申又を指す呼び名だと気付いた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。

「ふざけるな」

低く、押し殺した怒り。


「俺は申 (さる) じゃない!!」


拳を強く握る。

血が滲むほどに。

「誰が… なるかよ」

今すぐにでも叩き潰してやりたい。

あの家も、あの女も、あの男も。

奪われたものを、倍にして返してやりたい。

だが――

「… 違う」

ゆっくりと、息を吐く。

「今は、それじゃない」

頭に浮かぶのは、ただ一人。

ゆき。

< 205 / 246 >

この作品をシェア

pagetop