鏡と前世と夜桜の恋
足を止め、懐から取り出す。
紙の感触が、やけに現実的だった。
そこに書かれているのは… 申又
そして、母のおすずや藤川、陽菜話し
静かに目を走らせ、読み進めるごとに、咲夜の表情は冷えていく。
「… 申又」
コイツはおすず一家の長男。
その名を、低く吐き捨てる。
記されている内容は、どれも胸糞の悪いものばかりだった。
悪事の数々。
だが、そのどれもが表に出ることはない。
「… 家族全員で揉み消し、か」
鼻で笑う。
「さすがだな」
権力と金で塗り固められた腐った現実。
思い出すのは、あの監禁の日々。
あの家族は権力を乱用しどれだけの罪を重ねて来たんだろうか… 人の命を命と思わないアイツらは、どうしてのうのうと暮らしていられる?
「よく調べ上げられてる… ゆりが? いや、ゆりは文を預かったと、一体誰が… 」
考えてるうちに過去の出来事を思い出す。
おすずの声。
「陽菜と結婚すれば、申の代わりになればいいのさ」
あの時の、歪んだ笑み。
そして――
「申 … 」
ぽつりと呟く。
それが申又を指す呼び名だと気付いた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
「ふざけるな」
低く、押し殺した怒り。
「俺は申 (さる) じゃない!!」
拳を強く握る。
血が滲むほどに。
「誰が… なるかよ」
今すぐにでも叩き潰してやりたい。
あの家も、あの女も、あの男も。
奪われたものを、倍にして返してやりたい。
だが――
「… 違う」
ゆっくりと、息を吐く。
「今は、それじゃない」
頭に浮かぶのは、ただ一人。
ゆき。