鏡と前世と夜桜の恋
「… 待ってろ」
小さく呟く。
その声には、先ほど墓前で見せたものとはまた違う、確かな熱が宿っていた。
「必ず迎えに行く」
握った文を懐へ戻し、咲夜は歩き出す。
過去も、怒りも、全てを抱えたまま。
それでも進む。
守るべきもののために。
そして――
長崎へと、足を踏み入れていく…

政条家の墓参りを終え、久方ぶりに帰省した咲夜が見たものは…
屋敷の門前に立ち、まるで獲物を待つかのように佇む二つの影だった。
おすずと愛娘の陽菜。
「咲夜さーん❣️待ってたのよ」
陽菜は咲夜の姿を見つけるや否や、子どものように飛び跳ねて駆け寄る。
陽菜の横では、おすずは一歩も動かず、じっと咲夜を睨み据えていた。
「… どういうつもりだ。俺の邪魔をして、俺から蓮稀と鈴香を奪って、まだ足りないと言うのか」
低く抑えた声で言い放つ咲夜に、おすずは肩をすくめてみせる。
「邪魔?さあねえ、何の話だい?」
「やだぁ〜咲夜さんってば〜。ゆきちゃんが身請けを嫌がってるだけでしょ?」
くすくすと笑い合う二人。その態度は、あまりにも白々しい。
(まだ執着する気か… どこまで付き纏うつもりだ)
呆れを通り越し、咲夜は深く溜息を吐いた。
-- その時
「… おかえりなさい、咲夜」
屋敷の中から現れたのは、蓮稀と咲夜の母上だった。
「あら〜、それより咲夜さん。今回は大変でしたねえ〜?」
母上に気づいた途端、おすずはころりと表情を変え、殊勝な声色を作る。
(何が“ 大変でしたね ”だ… 元凶がよく言う)
咲夜の胸中には、冷えた怒りが渦巻いていた。
「……。」
母上は、この親子が何をしてきたかを知っている。それでもなお、何事もなかったかのように振る舞う二人に、ただただ言葉を失っている様子…
重苦しい沈黙の中、おすずが口を開く。
「私達はね、話があって来たんだよ」
「… 今更何の話だ。婚約はする、それ以外お前らと話すことなどない」
吐き捨てるように言う咲夜。
しかし母上は静かに一歩前へ出た。
「… では、私が聞きます。どうぞ中へ」
こうして、二人は屋敷へ通されることとなった。

客間に通されたおすずと陽菜は、落ち着きなく辺りを見回す。
「咲夜さん、本当に大変だったねぇ〜」
またしても他人事のような口ぶり。
「… お前らがしてきた事に比べれば、大変でも何でもない」
咲夜は短く言い、腰を下ろした。
室内には父親も在籍し両親も揃っている。
「… お話とは、何でしょうか」
母上が静かに問う。
その瞬間、陽菜が勢いよく身を乗り出した。