鏡と前世と夜桜の恋

「どうして、咲夜さんをゆきちゃんとまだ一緒にいさせるんですか?婚姻も決まってるのに、私が… 咲夜さんと一緒になりたいの… どうしても… !」

言いながら、その場で泣き崩れる。

「… 耳障りなんだよ」

咲夜の舌打ちが、静かな室内に響いた。

その涙を完全に無視し、おすずが口を開く。


「単刀直入に言うよ」

にやり、と口元を歪めた。

「咲夜さんとこの政条家が欲しいんだよ」

空気が凍りつく。

「咲夜さんにはね、これからもずっと私達の相手をしてもらう。そうすれば、あの小娘は自由にしてやるさ」

そして、わざとらしく肩をすくめる。


「まあ… 申又がどうするかは知らないけどねぇ?」

「… 極悪非道だな、本当に」

咲夜は静かに笑った。

視線を落とした先には、自らの右足。

「お前らに、俺の足はくれてやっただろう。監禁された時、逃げられないように動かなくなるまで折られてな… ゆきを抱く時に困っている」


皮肉のように笑う咲夜の姿に

「やめて!!いやああああぁああああ!!」

陽菜が絶叫する。

「やだ、やだ、咲夜さんがあの子を…」

「うるさい!静かにしなさい!」

母上の一喝が場を震わせた、普段の穏やかな姿からは想像もつかぬ怒気…

陽菜は一瞬、言葉を失うがすぐに叫び返す。


「おかしいわ!あんな金貸屋の娘より、私の方が咲夜さんのこと愛してるのに!」


その瞬間——

「… 黙りなさい!!」

母上の声が、鋭く響いた。

「あなたがゆきちゃんの愛を蔑むことは許しません!」

室内が凍りつく。

咲夜は小さく目を伏せた。

(…ありがとう)

誰にも聞こえぬよう心の中で。




完全な静寂。

その沈黙を破ったのは…

座布団の上で丸くなっていた飼い猫、ぶぶの欠伸だった。

耳をぴくりと動かし、のんびりと鳴く。





その場に似つかわしくないほど穏やかな音が、重たい空気に静かに溶かしていった。
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